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東京地方裁判所八王子支部 昭和51年(ワ)405号 判決 1981年7月13日

(昭和五一年(ワ)第四〇五号事件)

原告

福本龍蔵

外四〇名

(昭和五二年(ワ)第一、三五六号事件)

原告

遠山陽一

外一〇六名

(昭和五一年(ワ)第四〇五号事件及び同五二年(ワ)第一、三五六号事件)

原告ら訴訟代理人

森川金寿

外二一二名

(昭和五一年(ワ)第四〇五号事件)

原告ら訴訟代理人

宮地義亮

外七名

原告福本龍蔵訴訟代理人

新垣勉

外一二名

原告小林昭子訴訟代理人

日野和昌

外三名

(昭和五二年(ワ)第一、三五六号事件)

原告ら訴訟代理人

日野和昌

外三名

(昭和五一年(ワ)第四〇五号事件及び同五二年(ワ)第一、三五六号事件)

被告

右代表者法務大臣

奥野誠亮

右訴訟代理人

藤堂裕

右指定代理人

鎌田泰輝

外一七名

主文

1  本件訴訟のうち、夜間における航空機の離着陸その他の航空機騒音発生行為の差止請求にかかる訴えを却下する。

2  被告は、別表第一、(一)及び(二)記載の各原告に対し、同表慰藉料欄及び弁護士費用欄記載の各金員並びに慰藉料欄記載の金員に対する遅延損害金起算日欄記載の日から、弁護士費用欄記載の金員に対する昭和五六年七月一四日から、それぞれ支払ずみに至るまでの年五分の割合による金員を支払え。

3  前項の原告らのその余の金員請求及び別表第二記載の原告らの金員請求をいずれも棄却する。

4  訴訟費用は、別表第一、(一)及び(二)記載の原告らと被告との間において、右原告らに生じた費用の各二分の一を被告の、被告に生じた費用の五分の二を右原告らの、各負担とし、別表第二記載の原告らと被告との間において、被告に生じた費用の五分の一を右原告らの負担とし、その余はすべて各自の負担とする。

5  この判決は、第二項に限り、仮に執行することができる。

ただし、被告において、別表第一、(一)及び(二)記載の原告らに対し、担保として同表の仮執行免脱担保金欄記載の金員を供するときは、右担保を提供した原告との関係で仮執行を免れることができる。

事実

第一、当事者の求めた裁判

(請求の趣旨)

一1  被告は原告らのためにアメリカ合衆国軍隊をして、毎日午後九時から翌日午前七時までの間、横田飛行場を一切の航空機の離着陸に使用させてはならず、かつ原告ら居住地において五五ホン以上の騒音となるエンジンテスト音、航空機誘導音等を発する行為をさせてはならない。

2  被告は原告らに対し、それぞれ金一一五万円及びこれに対する本訴状送達の日の翌日から支払ずみに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

3  被告は原告らに対し、それぞれ本訴状送達の日の翌日から第1項の夜間離着陸及び騒音がなくなり、かつその余の時間帯においても、右飛行場の使用に基づく騒音が原告ら居住地において六〇ホンを超えることがなくなるまで、当該月末日限り一か月金二万三〇〇〇円及びこれに対する当該月の翌月一日から支払ずみに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

4  訴訟費用は被告の負担とする。

二  仮執行の宣言

(請求の趣旨に対する答弁)

一1  原告らの請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

二  担保を条件とする仮執行免脱の宣言

第二  主張<以下、省略>

理由

第一横田飛行場の沿革・現況と原告らの居住関係

一横田飛行場は、昭和一五年現在地に旧陸軍多摩飛行場として設置されたことに始まり、戦後連合国軍によつて接収され、昭和二一年以降米軍の使用するところとなり、昭和二七年四月平和条約の発効後、旧安保条約及び同条約に基づく行政協定により、昭和三五年六月以降は新安保条約及び同条約に基づく地位協定により、米軍に提供され、今日に至るまで継続して米軍の軍用飛行場として使用されていること、同飛行場は終戦当時面積約四四六万平方メートル、滑走路の長さ約一三〇〇メートルであつたが、その後被告において周辺の土地を買収し、または借上げるなどして逐次その面積を拡張した結果、現在では東京都西多摩郡瑞穂町、羽村町、福生町、武蔵村山市、立川市の五市町にまたがり、同都昭島市に隣接する面積約七一四万平方メートル、南北にのびる長さ三三五〇メートルの滑走路(南側三〇五メートル、北側三〇〇メートルのオーバーランを含めると三九五五メートル)のほか、誘導路・格納庫・駐機場・整備工場・通信施設・パッセンジャービル・住宅・倉庫・病院・学校・教会・レクリエーション施設等を有すること、同飛行場は朝鮮戦争当時米軍のB二九爆撃機の出撃基地となり、ベトナム戦争当時には後方支援基地となつたこと、昭和三五年B五七爆撃機とF一〇二戦闘機よりなる第三爆撃航空団が配備され、昭和三九年F一〇五戦闘爆撃機を主力とする第三五・第三六・第八〇戦術戦闘機大隊が移駐し、昭和四三年第三四七戦術戦闘機航空団及び戦闘支援連隊が編成され、F一〇五にかわつてF四戦闘爆撃機が配備されたこと、昭和四六年第三四七戦術戦闘機航空団が他に転出し、以後戦闘機・爆撃機の常駐はなく、同飛行場は戦闘基地としての性格をうすめ、C一四一・C五などの大型輸送機やDC八・B七二七などの民間チャーター機を中心とする空輸中継基地となり、昭和五〇年九月C一三〇輸送機を主力とする第三四五戦術空輸大隊が移駐してきたこと、昭和四八年日米安全保障協議委員会において、関東地区の米空軍施設を横田飛行場に整理統合するいわゆる関東計画が承認され、昭和四九年一一月在日米軍司令部及び米第五空軍司令部が同飛行場に移駐し、現在同飛行場は在日米軍及び米第五空軍の指揮中枢基地として、また米本土と極東地域とを結ぶ米空軍空輸軍団(MAC)の日本における唯一の中継基地として機能していること、以上の事実は当事者間に争いがない。

二原告らの居住関係

原告らがいずれも横田飛行場周辺に居住し、または以前に居住していた者であることは当事者間に争いがなく、別表第三、(一)及び(二)<省略>記載の原告らの居住関係の事実中、一部の原告らについて、その居住地及び居住期間に争いがあるので検討すると、原告千葉ミネ子に関しては、<証拠>により被告別冊第7表中番号4の同原告欄記載のとおりであることが認められ、<証拠判断略>原告武井倭、同武田キヨ、同西田二郎、同隅琢磨、同神崎清、同金子保二、同望月子太郎、同小川智司、同佐藤百合子、同敦賀平山、同永山信之、同島田直吉、同佐藤人志、同岡部利勝、同御供所弘人、同宮崎信夫、同細川重利、同枝川清、同荒木秋義、同斉藤敬治、同田村政二、同綾部善三郎、同松本平九郎、同山崎裕弘、同樋口金二郎、同後藤和枝、同堀川百合子、同村山郁子、同川口吉三郎、同奈良妙子、同冨士原武雄、同原島久昌、同川村立夫、同永野透、同土方章子、同田島昌子、同橘孝、同鎌田満子、同細貝光男、同金子利夫、同武田茂、同鈴木たけ、同臼井愛子、同周藤憲司、同吉岡正美に関しては、<証拠>によれば、いずれも別表第三、(一)及び(二)のうち右原告らに関する「居住地」「居住期間」欄記載のとおりであることが認められ、<証拠判断略>別表第三、(一)及び(二)のうちその余の事実はすべて当事者間に争いがない。

以上の事実並びに<証拠>に照らし、判断の便宜上、原告らの居住地のうち横田飛行場の滑走路南端から東側至近の距離で接する立川市砂川町中里付近の地域を中里地区(A地区)、同飛行場の南側に接し、福生市福東地区といわれる地域を基地南地区(B地区)、同飛行場とその西側フェンスに沿つて走る国道一六号線及び右道路沿いの商店街を挾んで、その西側にある福生市熊川第三、第四都営住宅のある地域を基地西地区(C地区)、中里地区及び基地南地区の南側に接し、右各地区とその約五〇〇メートルないし一〇〇〇メートル南方をほぼ北西から南東方向に走る国鉄青梅線とに挾まれた昭島市拝島町の地域を堀向地区(D地区)、青梅線の南側で滑走路の延長線を中心とした昭島市松原町、昭和町、拝島町、田中町、上川原町の地域を青梅線南側地区(E地区)に区分すると、原告らの居住地(転居前の居住地を含む)は、それぞれ別表第三、(一)及び(二)の「居住地区分」欄記載のとおりAないしEの各地区に属することとなる(別表第一図<省略>)。

第二本件訴えの適法性

一夜間飛行等差止請求にかかる訴えの適法性

原告らは本訴において、横田飛行場における米軍機の離着陸・エンジンテスト等の活動に伴つて生ずる航空機騒音・排気ガス等により、原告らが心身の被害及び日常生活に対する妨害等を受け、人格権または環境権を侵害されていることを理由として、被告に対し、米軍をして、毎日午後九時から翌朝午前七時までの間横田飛行場を一切の航空機の離発着に使用させること及び原告らの居住地域において五五ホン以上の騒音となるエンジンテスト音・航空機誘導音等を発する行為をさせることの各禁止を請求している(以下本件差止請求という。)。

ところで、原告らは、本件差止請求の性質につき、原告らの私法上の権利である人格権または環境権に基づく妨害排除請求権の行使であると構成し、横田飛行場における米軍機の活動により生ずる航空機騒音等により原告らの右権利が侵害されている以上、その侵害行為の法律的性質のいかんを問うまでもなく、右権利に基づく妨害排除請求権の行使としての差止請求が認められなければならないと主張する。しかし、いやしくも権利侵害がある以上、これに対する妨害排除請求権が当然に認められなければならないとはいえないのであつて、権利侵害に対してどのような救済が与えられるかは、被侵害利益(権利)の性質のみならず、侵害行為の内容・性質を明らかにしたうえで、実定法上の問題として具体的に検討されなければならない。

そこで本件差止請求について考えるに、前記のとおり横田飛行場は、現在わが国と米国との間で締結された新安保条約及び同条約に基づく地位協定により、わが国の安全と極東における国際の平和及び安全の維持に寄与するとの目的遂行のための施設及び区域として米軍に提供されているもので、同飛行場の管理運営の権限は、地位協定第三条により一切米軍に委ねられ、被告に右権限はない。そして米軍は同飛行場において米国の公権力の一部である軍事力を行使しているものであつて、同飛行場に対する米軍の管理運営及び同飛行場における米軍機の活動は、米国の公権力の作用に当たるものということができる。

ところで、本件差止請求は、横田飛行場に対する米軍の管理運営の権限を制約し、米軍機の活動を制限することを内容としているものであるが、右請求にかかる訴えが直接的に米軍の同飛行場に対する管理運営権の制約ないし米軍機の活動の制限を目的としているものであれば、同飛行場の管理運営権ないし米軍機の活動に対しなんらの権限をもたない被告には、右訴えにつき当事者適格が欠けているといわざるを得ないのみならず、米国の公権力の作用に対し、直接の制約・制限を加えることはわが国の民事裁判権の及ばないところであるから、かかる訴えが適法に成立する余地はないといわざるを得ない(この点において、被告の管理運営下にあり、その管理運営の法律的性質が非権力的作用に当たると解せられる公共用飛行場の場合と横田飛行場の場合を同一に論ずることはできない。)。

従つて本件差止請求にかかる訴えは、横田飛行場に対する米軍の管理運営ないし同飛行場における米軍機の活動に対し直接的な制約制限を加えることを目的とするものではなく、被告に対し、かかる制約制限を実現するための行為に出ることを求めている積極的給付の訴えであると解するほかはないが、右の意味での差止請求の訴えの適法性を肯認するには、少なくとも被告が米軍に対し、かかる制約制限を一方的に加えることが法律上可能であり、かつ原告らが私法上の権利に基づいて、被告に対し、かかる行為に出ることを請求し得る法律上の根拠が明らかにされなければならない。右の点について原告らは、被告が横田飛行場を米軍に提供している立場にあること並びに地位協定第三条第三項及び第一六条の規定をもつて、被告が米軍に対し、その活動の制限を加え得る法的根拠があるとしている。しかし、被告の横田飛行場提供の法律関係は国家間の条約に基づくものであつて、その管理運営が外国政府の公権力に委ねられているという関係にあるのであるから、条約ないし条約に基づく国内法令に特段の定めがなければ、被告が同飛行場を提供している立場にある場合と雖も、当然には米軍に対し、同飛行場の管理運営を制約し、その活動を制限し得るものということはできない。そこで進んで原告らの主張する地位協定の条項について検討するに、同協定第三条第三項は、米軍が使用している施設及び区域における作業は公共の安全に妥当な考慮を払つて行わなければならないとの規定であり、同第一六条は、日本国において日本国の法令を尊重し、この協定の精神に反する活動、特に政治活動を慎むことは米軍の構成員及び軍属並びにそれらの家族の義務であるとの規定であるが、これらの規定は、在日米軍の新安保条約の目的遂行のための公的活動につき、わが国の法令一般が直接適用され、米軍の活動がこれに拘束されることを定めた規定と解することはできず、わが国の法秩序の擁護尊重に対する配慮を一般的抽象的義務として定めたものと解するのが相当である。そして他に、被告が米軍に対し、直接横田飛行場の管理運営を制約し、同飛行場における米軍機の活動の制限を加え得るものと解される特段の定めは、新安保条約及びこれに関連する他の条約、国内法令中になく、却つて同条約及び地位協定の全体の趣旨に照らしてみれば、米軍に提供された軍事施設の管理運営ないし在日米軍の活動に対し制約制限を加えるには、地位協定第二五条に定められた日米合同委員会における協議を必要とし、合同委員会において解決できないときは、被告政府と米国政府との間の外交交渉を通じて双方の合意を取りつける方法によるべきものと解せられるのである。そうすると、本件差止請求は結局において、被告に対し日米合同委員会における協議ないしは米国政府との外交交渉を義務づける行政上の義務づける訴訟に帰するといわざるを得ないのであるが、かかる行政上の義務づけ訴訟は法律上成立する余地がない。けだし米軍に対する軍事施設の提供がわが国の安全と極東における国際の平和及び安全を維持するという高度の政治目的を有することにかんがみれば、被告において米軍に提供された軍事施設の管理運営ないし米軍の活動に対する制約制限を求める行為に出るべきか否かは、それが新安保条約の目的遂行に対しいかなる影響をもたらすものであるかの考慮のもとに、わが国をめぐる国際情勢はもとより、国内の政治・経済・社会事情を総合勘案して決定すべき高度の政治問題であり、被告の統治権の発動たる性質を有するものであつて、裁判所においてその当否を法律的に一義的に判断することは、その性質になじまないものというべきだからである。右の見地よりすれば、原告らが横田飛行場における航空機騒音等により、その主張するごとき各種の不利益を蒙つているとしても、被告においてこれを除去軽減すべき政治上の責任を負うことは別として、原告らが私法上の権利(原告らの主張する人格権・環境権が私法上の権利として肯認できるか否かの問題は、一応考慮の外に置く。)に基づく妨害排除請求権として、被告に対し、米軍の横田飛行場に対する管理運営を制約し、または同飛行場における米軍機の活動を制約せしめる行為に出ることを請求することはできず、右行為に出ることを求める積極的給付の訴えは法律上成立する余地のない不適法な訴えといわざるを得ないのである。

以上のとおり、本件差止請求にかかる訴えは不適法であり、この点に関する被告の主張は理由があるから、爾余の点につき判断するまでもなく、右請求にかかる訴えはこれを却下すべきものである。

二損害賠償請求にかかる訴えの適法性

原告らは、本件差止請求に併合して、航空機騒音等により原告らの人格権または環境権が侵害されていることを理由として、民特法(選択的に国家賠償法)の規定に基づき、過去(新安保条約発効以降)及び将来の損害賠償を請求している(以下本件損害賠償請求という。)。

これに対して被告は、横田飛行場が新安保条約に基づいて米軍に提供されている性質にかんがみ、同飛行場の通常の使用方法に瑕疵があり或いは同飛行場における米軍機の通常の飛行活動またはこれに付随する行動を違法と評価することは、とりもなおさず条約自体を実質的に違法と評価することにほかならず、条約の実質的違法性は裁判所の審査に服しないのであるから、横田飛行場の通常の使用方法或いは米軍機の通常の活動等によつて生じている損害の賠償請求は、司法審査になじまない事項を判断の対象とするものであつて、損害発生の有無を判断するまでもなく、法律上成立する余地がないと主張する。

しかし、航空機騒音等の発生が米軍の横田飛行場に対する通常の管理運営或いは同飛行場における米軍機の通常の飛行活動等に随伴するものであつても、本来一個の社会現象に対する法的評価は多面的になされ得るのであるから、施設の管理ないし活動に付随して私人の権利が侵害され、法的に保護されるべき利益に被害が生じている場合に、被害者に対し損害賠償(金銭賠償)による救済を与えるべきであると判断することは、米軍の施設の管理ないし活動が全面的に違法であるという結論に結びつくものとは言い難い。いいかえれば、右損害賠償請求権の前提として米軍の施設の管理に瑕疵があるとし、活動を違法と評価することは、米軍に施設を提供し、活動を許容している条約の実質的違法性までをも判断することにつながるものとは考えられない。そして新安保条約がわが国と極東の平和と安全を維持するという高度の公益性を有することはいうまでもないが、その公益性が高度であれば、その理由のみで全体の利益のために一部の者の犠牲を放置し得るというがごときことは、衡平の観念に照らして許されないところであり、民特法はこのような場合においても被害の軽減回復をはかるため、被害者に対して一般的に金銭賠償請求の法的根拠を付与しているものと解すべきである。この意味において本件損害賠償請求が司法審査になじまない事項を判断の対象とする不当な請求であるとの被告の主張は、にわかにこれを採用することができない。

もつとも新安保条約のもつ高度の公益性にかんがみれば、米軍の施設の管理運営ないし米軍の活動を原因として私人の権利ないし法的利益が侵害され、民特法に基づく被告の責任要件が存在する場合であつても、その侵害の内容程度のいかんによつては社会通念上なお受忍すべき範囲内にあるといわなければならない場合があるであろう。殊に本件は、具体的な財産権の侵害に対する経済的な損害賠償の請求ではなく、また原告らが具体的に身体的被害を蒙つていることを理由とする個別的な損害賠償の請求でもなく、航空機騒音等により原告らの居住地域の環境が急激に悪化し、これがため原告ら住民に対し一般的に身体的、精神的及び日常生活上もろもろの苦痛をもたらしていること(これを人格権または環境権に対する侵害と呼ぶことが適切であるかどうかは重要な問題ではない。)に対する慰藉料として請求されているのであるから、このような請求の当否を単に被害の内容、程度のみによつて判断することは相当ではなく、侵害行為の態様と公益性、被害の防止軽減のためにとられた措置などにつき検討し、これらの事実を総合して、原告らの蒙つている被害が社会通念に照らし受忍限度を超えているか否かが(将来請求に関しては更にその要件を含め)検討されなければならない。

第三侵害行為

一航空機騒音

(一)  はじめに

航空機騒音は、飛行騒音と地上音とにわけられるが、いずれもエンジンの種類・出力等によりその音質・音量に著しい差異があるのみでなく、同一機種であつても航空機の高度・距離・角度・速度・積載量・離着陸の別により、また風向・風速・温度・湿度・雲量等の気象条件のいかんによつて、原告ら住民に到達する騒音の程度に著しい相違をきたす。

また横田飛行場が軍用飛行場であるという性質から、同飛行場に離着陸する航空機の運航に定期性がなく、機種・飛行頻度等も国際情勢を反映して大きく変動することがあるほか、飛行時間帯も一定していない。

右のとおり横田飛行場における航空機騒音は極めて複雑な様相を示しているのに加え、運航管理が完全に米軍によつて掌握されており、かつ米軍の資料が公開されていないため、同飛行場における航空機騒音の実態を把握することは極めて困難な状況にある。

本件において、航空機騒音に関する資料は主として民間及び地元自治体(東京都・昭島市等)の観測によつて得られたものであり、その資料は膨大な量に達し、民間及び地元自治体のこれらの資料の蒐集についやされた努力が尋常のものではなかつたことが窺われるが、それでも永年にわたる横田飛行場周辺の航空機騒音の実態を完全に明らかにするものとはいい難い。

以下本件証拠資料によつて把握し得る範囲において、横田飛行場周辺における航空機騒音の状況について検討する。

(二)  概観

<証拠>を総合すれば、およそ次のとおり認めることができる。

1 横田飛行場に離着陸する航空機は、大別するとジェット機・プロペラ機及びヘリコプター機よりなり、プロペラ機のうちにはエンジンの種類によりレシプロ機とターボプロップ機があるが、レシプロ機は極めて少数の小型機に限られている。ところでジェット機の発する騒音は、高出力のエンジンから高速で噴出される燃焼ガスが空気を摩擦するときに生ずる音とジェットエンジン中のコンプレッサー、タービン及びファンの回転音とが複合したものであつて、離陸時には噴射ガスと空気との摩擦音が、着陸時にはコンプレッサーなどの音が主要な音源となる。およそ航空機騒音は、広帯域の周波数成分を有しているものであるが、ジェット機の場合は、その主成分が中高音域にあり、プロペラ機と比べて一〇〇〇ないし四〇〇〇ヘルツの音圧が高く、四〇〇〇ヘルツ以上の周波数においてはジェット機の方が圧倒的に大きい。例えばKC一三五空中給油機は、四〇〇〇ヘルツ付近の高音域に主成分があるため、横田飛行場に飛来する航空機のうちでも、最もやかましく感じられる機種のひとつである。これに対してプロペラ機では、プロペラの回転音が主であり、七五ヘルツないし三〇〇ヘルツの低音域に主成分があり、高音域になるにしたがつてレベルが急速に低下し、また出力も小さい。かようなジェット機騒音の高音圧、高周波成分がかん高い金属音となつて響き、プロペラ機の騒音よりも遙かに人に不快を感じさせる原因となつている。

2 ところで、横田飛行場周辺における航空機の飛行経路は、南北方向の直進コースと西側旋回コースとに大別される(別紙第二図)。

直進コースは横田飛行場を離着陸する飛行機のとるコースで、同飛行場の南側に着陸機のための航行援助施設として、滑走路南端から南方約0.7キロメートル先の堀向地区北部にミドルマーカー、同所より更に南方約一〇キロメートル先の八王子市柚木にアウトマーカーが、それぞれ設置されていて、南方からの着陸機は、これらの施設から発せられる信号にしたがい、おおむねアウトマーカーの上空約六〇〇メートル、ミドルマーカーの上空約六〇メートル、同飛行場内にあるインマーカーの上空約三〇メートルを通過し、約2.5度の角度で滑走路に進入する。これに対し離陸の場合、航空機の機種によつて高度差が大きく、滑走路南端から南方約一キロメートル付近において約一〇〇メートルないし五〇〇メートル、約2.3キロメートル付近において約二〇〇メートルないし九〇〇メートルの上空を通過し、高低さまざまであるが、一般的に離陸機の方が着陸機より高度が高い。また同一機種であつても、離陸の場合の方が高出力のため騒音ピーク値が高く、持続時間も長くなるが、着陸の場合は低出力・低高度となり、騒音の影響がコース直下に集中的に現われる傾向がみられる。ところで航空機は風に対向して離着陸する関係から、北風の多い冬季には、横田飛行場の南側の地域(昭島市側)ではほとんどが高度の低い着陸機が飛行し、北側の地域(瑞穂町)では高出力の離陸機が飛行することとなるが、夏季には、北向及び南向に離着陸する航空機がほぼ半々になり、年間を通してみると、昭島市側ではおおむね一対三の割合で離陸機より着陸機の方が多いと推認することができる。原告らの居住地に関しては、中里地区・基地南地区の東部並びに堀向地区及び青梅線南側地区の各中央部が南側直進コースの直下もしくはその付近(以下進入コース直下という。)の地域に当たる。

また西側旋回コースは、搭乗員の離着陸訓練(タッチアンドゴーといわれ、航空機が着陸態勢に入り、接地した後再上昇し、上空を旋回して元の位置に戻り、再び接地・再上昇を繰返す訓練)の際にとられるもので、二機或いは三機が編隊を組んで訓練を行うことがみられる。このコースは必ずしも一定しているとはいえないが、滑走路南端から一ないし二キロメートル地点付近で西側へ旋回し、或いは西側を南下してきて同地点付近で旋回し、滑走路延長線に入ることが多い。ときには滑走路南端から六キロメートル位南下した地点で旋回することもあり、右コースの直下もしくはその付近の地域には、瑞穂町西部・羽村町・福生市・昭島市北西部・多摩川の各一部が含まれ、原告らの居住地に関しては、主として基地南地区・堀向地区(その東部を除く)及び青梅線南側地区北西部がこれに当たる。

(三)  時期別飛行状況と飛行騒音

横田飛行場周辺における飛行状況と飛行騒音を、便宜上第一期(朝鮮戦争当時より昭和三八年一二月末まで)、第二期(昭和三九年一月より昭和四五年一二月末まで)、第三期(昭和四六年一月より昭和四九年一二月末まで)、第四期(昭和五〇年一月以降)にわけて考察する。

<証拠>を総合すれば、およそ次のとおり認めることができる。

(第一期)

横田飛行場は、朝鮮戦争当時B二九爆撃機(プロペラ機)の出撃基地として使用されたが、同戦争の末期頃からF八六戦闘機を始めとするジェット機が登場し、昭和三五年以降においてはB五七及びB四七各爆撃機、F一〇一及びF一〇二各戦闘機、T三三及びT三九各練習機などのジェット機が飛行回数の大部分を占めるようになつた。

この時期における同飛行場周辺の飛行騒音の状況を確認するに足りる客観的資料は極めて乏しいが、昭島市職員の観測によると、昭和三〇年六月九日午前八時より午後四時四五分までの間に、堀向地区の昭島市立拝島第二小学校(拝二小)職員室において、七〇ホン以上の騒音発生回数一七〇回、一八二機(そのうち九〇パーセント以上がジェット機、機種不明)、そのうち八〇ホン以上一二一回、一〇〇ホン以上四四回、最高一二四ホンが記録され、昭和三八年九月二六日から同月二八日までの三日間(いずれも日中)同市堀向地区旧堀向公会堂において最高一二五ホン(F一〇二による)、八五ホン以上の騒音一時間平均一〇回ないし一四回が記録されている。

(第二期)

この時期においては、米軍のベトナム戦争介入(いわゆる北爆は昭和四〇年二月頃開始され、昭和四三年一一月全面的に停止された。)とエンジン出力の大きい高性能機の出現とが相まつて横田飛行場周辺における飛行騒音は質量ともに増大した。機種としては、昭和三九年五月頃F一〇五戦闘爆撃機、昭和四三年頃F四戦闘爆撃機が配備され、その飛行が目立つたほか、C一四一・C一三五(KC一三五)・C五など大型輸送機、DC八・B七〇七・B七二七など民間チャーター機、前期以来のB五七(RB五七)・B四七・T三三・T三九などジェット機の飛行が多く、C一三〇・C一二四各輸送機などのプロペラ機、H3などのヘリコプター機も飛行したが、飛行回数のうち七、八〇パーセント以上はジェット機によつて占められていたと考えられる(別表12参照)。

この時期においても前期同様客観的な観測資料は不十分であるが、昭島市では騒音の増大により民生に及ぼす影響を放置できなくなつたため、昭和三九年自動騒音記録計を購入して実態調査の強化をはかり、昭和四四年六月以降ほぼ継続的観測資料(別表7ないし9)を残し、また東京都においても昭和四三年以降昭島市と協力して騒音の実態調査を行つている。

昭島市の資料によると、

(1) 昭和三九年八月一〇日から同月一二日までの三日間、堀向地区旧堀向公会堂での観測において、一〇日午前九時より午後五時までの間に一二六機、一時間平均15.7機、一一日午前七時より午後七時までの間に一四二機、一時間平均11.8機、一二日午前六時より午後七時までの間に九七機、1時間平均7.4機、機種別騒音度別表1記載のとおり離陸時最高一二九ホン、着陸時最高一二七ホンの騒音が記録され、

(2) 同年九月一三日から同月三〇日までのうちの一四日間前同所での観測において、別表2記載のとおり八〇ホン以上の観測回数合計二六六七回、一日平均190.5回、そのうち一〇〇ホン以上七五四回、一日平均53.85回、夜間(午後六時から午前六時まで)八一七回、一日平均58.3回、最高一二七ホンが記録され、

(3) 同年一二月から昭和四〇年八月までの間、堀向地区での観測において、別表3記載のとおり八五ホン以上の騒音発生回数一ケ月六〇〇〇回前後、夜間(午後七時より午前六時まで)最少昭和四〇年一月の五七〇回、最多同年七月の一三九六回、一〇〇ホン以上の騒音の発生回数二分の一ないし三分の一、最高一三七ホンが記録され、

(4) 昭和四一年七月から同年一一月までの間、堀向地区での観測において、別表4記載のとおり八五ホン以上の騒音発生回数一ケ月二一一〇回ないし三七九八回、そのうち夜間(午後七時より午前七時まで)一ケ月五四四回ないし八七二回、一〇〇ホン以上の騒音の発生回数三分の一ないし五分の一、最高一二五ホンが記録され、

(5) 昭和四四年六月以降昭和四五年一二月までの拝二小での観測結果は別表7記載のとおりであつて、昭和四五年の七〇ホン以上の騒音発生回数一日平均124.8回、平均九四ホンが記録され、

(6) 昭和四四年八月及び同四五年五月における時間帯別平均測定回数及び曜日別測定回数(いずれも月間平均)は別表5及び10記載のとおりである。

次に東京都の資料をみると、昭和四三年ないし同四五年の夏季及び冬季における観測の結果、騒音ピーク値のパワー平均は、滑走路延長上南方三キロメートル、東西0.3キロメートル以内において一〇〇ホン以上、南方六キロメートル、東西一キロメートル以内において九〇ホン以上が記録され、七〇ホン以上の騒音持続時間は、機種・離着陸の別・気象状況等によりさまざまであるが、滑走路端近辺において離陸時三〇秒以上(一分をこえることもある)、着陸時二〇秒前後、滑走路延長上南方一キロメートルないし六キロメートル、東西一キロメートル以内の地域において一五秒前後と記録されている。またNNI分布については、夏季と冬季で若干の差があるが、およそ滑走路端近辺において六九、滑走路延長上南方四キロメートル、東西0.7キロメートル以内において六〇以上、南方六キロメートル、東西一キロメートル以内において五〇以上、それ以外の飛行場周辺地域においては、東西0.5キロメートル以内六〇前後、同一キロメートル付近五〇前後となつている。

これを要するに、第二期前半において横田飛行場周辺の航空機騒音の状況は、ベトナム戦争の影響を受け、質量ともに最悪となり、北爆停止以後やや軽減されたことが窺えるが、それでも昭和四五年当時堀向地区において年間を通じ七〇ホン以上の騒音発生回数一日平均124.8回、一時間平均5.2回、平均九四ホンの騒音に見舞われ、また昭和四五年五月の月間平均において夜間一時間当たり3.3回の騒音が発生し、NNI分布状況からみても、第二期の騒音状況はまことにすさまじいものであつたといわざるを得ない。

(第三期)

昭和四六年五月頃横田飛行場からF四戦闘爆撃機が転出し、同飛行場は戦闘基地から空輸中継基地にその性格をかえた(なおいわゆる北爆は昭和四七年四月頃再開されたが、昭和四八年一月ベトナム戦争の停戦により完全に停止された。)。これにともない、飛来する航空機の種類もC一四一・C五・C一(以上ジェット機)、C一三〇・C一二三(以上プロペラ機)などの輸送機、DC八・DC九・B七〇七・B七二七(以上ジェット機)などの民間チャーター機、T三三・T三九(以上ジェット機)練習機が大部分を占め、F四・A四・A六などの戦闘機・攻撃機(いずれもジェット機)はまれに姿を見せる程度になつた。総飛行回数中ジェット機の占める割合は、C一三〇の飛行回数の増加により若干減少したと推認される。

前期に引続いて昭島市及び東京都は騒音の実態調査を行つている(ただし観測場所は、昭和四六年一月以降同年三月まで拝二小、同年四月以降同年一二月まで滑走路南端より南方二キロメートル地点、同四七年一月以降滑走路南端より南方三キロメートルの昭島市大神町三九一の一)が、昭島市の観測結果は別表8記載のとおりで、七〇ホン以上の騒音発生回数は、昭和四六年二万七一四四回(一日平均95.3回)、同四七年二万四四〇七回(一日平均72.2回)、同四八年一万五三七三回(一日平均44.2回)、同四九年九九一七回(一日平均29.0回)、そのうち夜間(午後七時から午前七時まで)の発生回数は月別一時間平均にして昭和四六年3.0回ないし2.4回、同四七年2.9回ないし1.4回、同四八年1.5回ないし0.6回と年々減少している。騒音レベルも僅かではあるが低下し、各月の最高音一一〇ホンないし一二〇ホン前後、七〇ホン以上の騒音発生回数のうち一〇〇ホン以上の占める割合は三分の一ないし四分の一、平均音(最高音の算術平均)は昭和四六年九五ホン、同四九年九三ホンとなつている。そのほか昭和四六年一月、同四七年四月、同四八年六月、同四九年六月における時間帯別平均測定回数及び曜日別測定回数(いずれも月間平均)は別表5及び10、昭和四六年六月二九日及び同年八月二六日における機種別飛行回数は別表12記載のとおりである。

東京都の観測結果によると、騒音ピーク値のパワー平均(年間)は昭和四六年一〇三ホン、同四七年一〇〇ホン、同四八年九九ホン、同四九年九九ホン、NNI(年間)は昭和四六年六五、同四七年六五、同四八年五六、同四九年五四、WECPNL(年間)は昭和四七年九五、同四八年九三、同四九年九二となつていて、騒音の減少を裏付けている。

また社団法人日本音響材料協会が昭和四八年七月から八月にかけて行つた実態調査の結果に基づいて作成したWECPNL騒音コンター図(中央公害審議会提唱型)は別紙第三図のとおりで、これによると中里地区は九五前後、基地南地区・堀向地区及び青梅線南側地区は地域により九〇以上九五未満、八五以上九〇未満、八五未満にわかれ、基地西地区は八〇未満となつている。

(第四期)

第四期においては、全体としてみると前期の傾向が引続き維持され、飛来する航空機の種類もほぼ前期と同様であるが、関東計画による基地機能の強化とC一三〇輸送機を主力とする部隊の移駐により、第二期末頃から減少を続けてきた飛行回数が昭和五〇年九月以降若干増加に転じた。これは主としてC一三〇の訓練飛行による影響と推認されるが、訓練飛行は毎日実施されるものではなく、年間一〇〇日前後は行われず、夜間帯(午後五時以降)において訓練が実施されたのは、年間日数中三〇ないし三五パーセント程度で、土曜日・日曜日にはほとんど行われていない模様である。

第四期における昭島市の観測結果は別表9記載のとおりで、七〇ホン以上の騒音発生回数は、昭和五〇年一万〇三四一回(一日平均28.8回)、同五一年一万三六九〇回(一日平均38.4回)、同五二年一万三七二四回(一日平均38.4回)、同五三年一万三三二五回(一日平均三六回)、同五四年一万四一三三回(一日平均40.8回)となつており、機種別確認回数は別表13記載のとおりで、C一三〇は昭和五〇年において一四〇八回、22.6パーセントであつたが、同五四年において三二五八回、40.0パーセントに増加し、これに次いでT三九・C一四一の飛行回数が多い。総測定回数中ジェット機・プロペラ機・ヘリコプター機のそれぞれ占める割合は別表16記載のとおりで、ジェット機の占める割合は、昭和五〇年六〇パーセントから同五四年45.9パーセントに減少した。時間帯別測定回数(年間平均)は別表6記載のとおりで、日中一時間平均は昭和五〇年1.7回から同五四年2.7回に増加し、夜間一時間平均は各年間0.7回で変化がない。曜日別測定回数(年間平均)は別表11記載のとおりで、日曜日及び土曜日の回数が他の曜日の回数に比して少ない。騒音量については、七〇ホン以上の測定回数中一〇〇ホン以上の占める割合が、昭和五〇年一〇パーセントに対して、昭和五一年6.4パーセント、同五二年4.6パーセント、同五三年3.7パーセント、同五四年5.6パーセントとなり、平均音において昭和五〇年九〇ホンが同五四年八七ホンと僅かではあるが低下している。なおこの時期における七〇ホン以上の月別騒音持続時間の状況は、別表15記載のとおりで、昭和五〇年に比して同五一年以降若干増加している。

東京都が前期に引続いて行つている観測結果によると、昭和五〇年以降同五三年までの間の昭島市大神町固定測定点における騒音ピーク値のパワー平均、NNI及びWECPNLのそれぞれの年間平均値は別表17記載のとおりで、飛行回数が若干増加しているのに、これらの値が減少しており、プロペラ機の増加に伴い騒音レベルが低下したことを示している。また昭和五〇年以降同五二年までの三年間の羽田空港(東京国際空港)と横田飛行場の各周辺における深夜早朝時間帯別騒音(七〇ホン以上)年間発生回数の比較は、別表18記載のとおりで、公共用飛行場に比べて横田飛行場周辺においては深夜早朝における騒音発生回数の著しく多いことが注目される。

社団法人日本音響材料協会が昭和五〇年以降同五三年までの間(ただし本調査は同五二年)に行つた実態調査の結果に基づいて作成したWECPNL騒音コンター図は被告別冊第7図のとおりで、これを前期の昭和四八年調査に基づくコンター図と比較すると、WECPNL九五以上の地域がなくなり、九〇以上九五未満の地域がほぼ青梅線以北となり、八五以上九〇未満の地域の幅が滑走路延長線を中心として狭くなる一方、南方に細長く延び、その結果およそ中里地区と基地南地区及び堀向地区のうちの進入コース直下地域は九〇以上九五未満、基地南地区及び堀向地区のうちその他の地域の大部分は八五以上九〇未満、一部八五未満、青梅線南側地区の大部分は八五以上九〇未満、一部八五未満、基地西地区は八五未満となつている。

(四)  地上音

<証拠>を総合すれば、次のとおり認めることができる。

1 航空機騒音には、飛行中に発生する騒音のほか、離陸のための滑走中または着陸の際の逆噴射(エンジンブレーキ)により生ずる騒音、滑走路と駐機場等との間の移動により生ずる騒音(誘導音)、エンジンの試験・調整作業により生ずる騒音(エンジンテスト音)などひろく地上音といわれるものがある。

ところでエンジンの試験作業は、エンジンが正常に作動するかどうかを検査するために行うもので、エンジンを機体から取り外して行う場合(テストセル作業)と機体に取り付けたまま行う場合(トリムパッド作業)があり、いずれもエンジンの最大出力をもつて行われ、地上音中もつとも激しく、消音器を使用しない限りその騒音はすさまじいものがある。右作業は、横田飛行場では滑走路北側東寄り付近と同南側西寄り付近に各一箇所のテスト場をもうけて行われているが、南側のテスト場は、中里地区・基地南地区・基地西地区・堀向地区からおよそ一キロメートル以内にあつて、これらの地区の居住者に大きな影響を及ぼしている。しかし後記のとおり昭和三九年八月頃同飛行場にジェット戦闘機用の効果的な消音器が設置されたほか、同四六年五月F四戦闘機部隊が移駐した後は、ごくまれにトリムパッド作業が行われているのみで、テストセル作業は行われなくなり、消音器も撤去された。原告らの陳述書において、昭和三五年頃から同四六、七年頃までのエンジンテスト音はひどいものであつたと訴える者が多いが、その後同テスト音は著しく減少しているとの趣旨の記載が少なからずみられるのは、右経緯を裏付けているものということができる。

他方調整作業は、エンジンの水漏れその他の細い点検・調節、暖機(ウォームアップ)などのために駐機場等において出力を五〇ないし六〇パーセントに落して行うものであり、また地上誘導の際には更に出力を落しているので、これらの騒音レベルは前記の試験作業より生ずる騒音に比してかなり低く、その影響の及ぶ地域は横田飛行場にごく近接した地域に限られるが、調整作業は長時間にわたつて継続することがあるため、これが深夜早朝に行われるときは、中里地区・基地南地区・堀向地区の居住者に相当の影響を及ぼすことは容易に推認することができる。

2 地上音に関する客観的資料は、飛行騒音に比較して遙かに乏しいが、昭島市が昭和三八年から同四一年の間に堀向地区で観測したエンジンテスト音(試験作業より生ずる騒音と調整作業より生ずる騒音と区別されていないが、両者を含むものと思われる。)の状況は別表19ないし23記載のとおりであり、その概略は次のとおりである。

昭和三八年九月二六日から同月二八日まで及び同三九年八月一〇日から同月一二日までの観測において、日中五時間四〇分ないし一〇時間三〇分の間に二回ないし七回、延二時間四〇分ないし五時間四〇分にわたり断続的に行われ、その騒音レベルは昭和三八年の三日間において八三ホンないし一二五ホンに達していたが、昭和三九年の三日間においては六〇ホンないし八七ホンにまで減少した。これは米軍が設置した消音器の効果によるものと推認される。その後昭和三九年一二月から同四〇年四月まで、七五ホンないし一一〇ホンと再び高い状態に戻り、昭和四一年七月から同年一一月までは六八ホンないし九九ホンと幾分減少した。

昭和三九年一二月以降同四一年一一月までの間において、エンジンテストの最も多く観測された月の記録(月別合計)としては、回数につき昭和四〇年三月の二一五回(一日平均約七回)、持続時間につき同年二月の一三七時間五分(一日平均四時間五四分)というものがある。また昭和四一年一〇月二七日午前三時三八分から午後七時までの間に三回、各持続時間五分ないし六時間四五分、延一〇時間二五分、騒音レベル七〇ホンないし八八ホン、同年一一月三日午前七時三四分から午後九時四五分までの間に八回、各持続時間二分ないし五時間四〇分、延九時間三五分、騒音レベル八〇ホンないし九二ホンというすさまじい例がみられる。

3 当裁判所が実施した現場検証の際の地上音の状況は次のとおりであつた。

第四回現場検証において、滑走路南端から南方約2.2キロメートル離れた原告大野悦子方(青梅線南側地区)で、着陸後のエンジンブレーキ音と思われる騒音を聴取したが、原告ら代理人において測定した騒音レベルは、C一三〇の場合閉め切つた室内(非防音室)で最高六〇ホン、C五の場合屋外で七四ホンであつた。第五回現場検証において、滑走路南端から東方約0.25キロメートル離れた原告金井和夫方(中里地区)で、C一四一の誘導音を聴取したが、原告ら代理人の測定によれば、屋外で五五ホン以上の騒音が六分三〇秒以上、七五ホン以上では三分以上継続し、最高音は屋内(非防音室)の閉め切つた状態で五一ホン、窓を開けた状態で六五ホンであり、被告代理人の測定では、最高音屋外七四ホン、屋内六三ホンであつた。

またビデオ検証(原告ら代理人の委嘱により訴外西東京ビデオプロこと杉山尚が昭和五五年二月五日午前六時五三分より同一〇時二六分までの間に原告金井和夫方で録画したビデオテープの一部の映写)において、C一四一・T三九・B七四七・C五の地上誘導及び離陸の状況並びにC一三〇が六機並んで一斉に約二〇分間にわたり行つたエンジンテスト(離陸準備のための暖機運転と思われる)の状況が明らかにされたが、その状況から判断してこれらの地上音が中里地区及びその他の横田飛行場に極めて近接した地域の居住者に及ぼす影響は著しいものがあると推認された。

4 原告ら代理人が昭和五四年一一月から同五五年一月末までの間、原告金井和夫方において観測したところによれば、誘導音につき屋外で六五ホンないし九五ホン(そのうち頻度の多いのは七〇ホンないし八〇ホン)、屋内で三五ホンないし八四ホン(そのうち頻度の多いのは四〇ホン台及び六〇ホン台)、エンジンテスト音(暖機運転によるものと思われる。)につき屋外で四五ホンないし九二ホン、屋内で三五ホンないし八二ホンが記録され、また昭和五五年三月二二日から六日間、同原告方において同原告の妻訴外金井かつ他一名が観測したところによると、屋内において四七ホンないし六九ホンの地上音が記録されている。

(五)  暗騒音

<証拠>によれば、横田飛行場の南側周辺には、国道一六号線・五日市街道・奥多摩街道等の交通量の多い幹線道路があり、これらの道路沿いでは、中央値で六〇ホンないし七五ホン程度の暗騒音(主に交通騒音)があるが、これらの道路から少し離れた地域の暗騒音は、昼間の中央値で三五ホンないし六〇ホン、平均五〇ホン前後で、静かな住宅地域ということができ、原告ら居住地の暗騒音も全体的にみて右の程度のものと推認することができる。

これを前記認定の航空機騒音(ピーク値または算術平均値)と比較すると、その差はおよそ二五ホンから七〇ホン前後に及び、航空機の飛行するときと、しないときの差は、まことに大きいものがあるといえる。

二排気ガスと振動

(一)  排気ガス

前記認定の横田飛行場周辺における航空機の飛行状況並びに<証拠>を総合すれば、次のとおり認めることができる。

1 航空機は大量の一酸化炭素、炭化水素、窒素酸化物等を排出するが、その排出量を自動車(一六〇〇CC)のそれと対比すると、B七四七(ジャンボジェット機)では、一酸化炭素において自動車の三〇四台分、炭化水素において三七四台分、窒素酸化物において二七八四台分であり、DC八では、それぞれ三四一台分、一六一一台分、五五〇台分、またYS一一ではそれぞれ二二台分、五九台分、一〇四台分である。また、東京国際空港における昭和四八年一〇月の一日平均離着陸機数二一三機(内訳B七〇七、B七四七、B七二七、B七三七、DC八合計一六六機、YS一一、四七機)の排気ガス中に含まれる一日あたりの汚染物質総排出量(高度一〇〇〇メートル以上に到達した後の巡航時を除く。)についてみると、一酸化炭素10.311トン、炭化水素6.205トン、窒素酸化物3.160トンである。

ところで、横田飛行場に離着陸する航空機は、前記認定のとおりまことに多種に及ぶが、そのうちC五ギャラクシーは、推力一八六〇〇kgのターボファンジェットエンジン四基をそなえ、全長約七五メートル、翼巾約六八メートル、最大積載量約一二〇トンであつて、B七四七よりひとまわりも大きく、その他C一四一、DC八など大型ジェット機の飛行も少なくなく、さらに前記認定の飛行回数は横田飛行場の南側における数値であつて、しかも捕捉率において完全とは言い難いうえ、北方離着陸を含めた全体の離着陸機数としては、右飛行回数に対し、かなりの増加が見込まれること等の諸事情にかんがみると、横田飛行場及びその周辺において航空機が排出する排気ガスの量はまことに大量のものと推測することができる。

2 しかし、環境庁の東京国際空港における調査結果によると、次の事実が明らかにされている。

昭和四七年一〇月一七日から同月二三日までの七日間において、同空港のライン整備ビル前(アイドル走行中の航空機の通過の最も激しい通路の横の地点。以下a地点という。)と、同空港のB滑走路南端(離陸の際の発進地点の後方約八〇メートルの地点。以下b地点という。)における測定値をみると、一酸化炭素は、a地点で平均2.9ppm(最高4.6ppm、最低1.8ppm)、b地点で平均3.5ppm(最高5.7ppm、最低1.5ppm)、炭化水素は、a、b両地点で平均1.4ppm(いずれも最高1.8ppm、最低1.1ppm)、窒素酸化物中、二酸化窒素は、a地点で平均0.054ppm(最高0.078ppm、最低0.030ppm)、b地点で平均0.076ppm(最高0.078ppm、最低0.030ppm)、一酸化窒素はa地点で平均0.066ppm(最高0.128ppm、最低0.034ppm)、b地点で平均0.121ppm(最高0.188ppm、最低0.037ppm)、二酸化硫黄は、a地点で平均0.044ppm(最高0.049ppm、最低0.028ppm)、b地点で平均0.052ppm(最高0.081ppm、最低0.039ppm)であつた。しかし、一酸化炭素については、右数値のうち航空機の排気ガスによる影響は1ないし1.5ppmで、他は自動車の排気ガス等による周辺濃度と推測され、炭化水素については、その総排出量の約九八パーセントがアイドル走行時に放出されるものであるにもかかわらず、夜間日中の航空機の発着状況に影響なくその変動幅が極めて少なく、むしろ航空機との関係が認められない深夜午前零時あたりと、南風の昼間においてやや高めに出るなどの現象がみられたほか、一般的に都市大気には、自然発生のメタンガスによる0.3ないし1.5ppm程度の寄与があり、また窒素酸化物については、その総排出量の七〇パーセント強が地上五〇ないし一〇〇メートル以上の空港外で排出されているが、空港内において右窒素酸化物の影響が現われるとすれば、a地点では北風、またb地点では北東風の時と考えられるのに、計数上は右関係を示すデータが得られず、二酸化硫黄は、排出ガスとはほとんど関係がなく、地上滑走中のタイヤゴムの燃焼による発生が考えられたが、量的には僅かなものであり、その測定値も周辺濃度の範囲内であつて、その影響が観察できなかつた。結局、一酸化炭素を除いては、同空港における汚染物質濃度に対する航空機排気ガスもしくはタイヤゴム燃焼の寄与の関係を明確にするデータは得られず、一酸化炭素については航空機による加算が僅かながら認められたが、その濃度は都市の一般環境に照らし異常といえる程のものではなかつた。

3 ところで、横田飛行場における大気中の汚染物質の濃度に関する具体的測定資料は見当たらないが、東京国際空港における航空機の離着陸回数と横田飛行場におけるそれとを比較すると、前者は昭和四七年が一七万〇一〇二回、同四八年が一七万二九七四回であり、後者は、測定資料のうちで月間測定回数の最も多い昭和三九年一二月から昭和四〇年八月に至る記録、一ケ月平均六〇〇〇回前後(ただし堀向地区における八五ホン以上の測定回数、別表3<省略>)を基準とし、更に北方離着陸分、捕捉率の不完全さなどを考慮すると、その当時においてはおおむね右東京国際空港の離着陸回数に近いものであつたと推測されるが、横田飛行場においては昭和四〇年頃に比較して昭和四五年以降の飛行回数が顕著に減少しており、また総飛行回数中ジェット機の占める割合が低下していることを考慮すると、昭和四五年以降横田飛行場周辺の原告らの居住地において、東京国際空港における前記測定結果を上廻る航空機排気ガスによる大気汚染の事実を認めることは到底できない。

しかし、滑走路に近接し、航空機が低空で飛行する中里地区並びに基地南地区及び堀向地区の進入コース直下地域においては、飛行場内もしくはその近辺に滞留した排気ガスが時として高濃度のものとなつて襲い、或いは排気ガス中に含まれる煤塵によつて洗濯物等が汚染されることは十分にあり得ることと思われる。

(二)  振動

前記のとおり、航空機、特にジェット機の飛行騒音及び地上音は日常一般にみられる他の騒音源に比較すれば極めて高音圧のものであり、また高速進行が大気にもたらす衝撃も極めて強烈なものであつて、これらによつて生じる空気の振動、風圧等には著しいものがあることは、推測するに難くないところ、<証拠>によれば、大阪府立大学工学部災害科学研究所は、大阪国際空港周辺において行つた調査の結果、飛行中の航空機騒音が地上に達したときの音圧は直接励振力として働くため、地面と建築物全体がほとんど一体となつて垂直に振動し、コンベア八八〇機(四発ジェット機)の地上における騒音レベルが一一〇dBのとき、地面の垂直加速度は一八〇ガル程度、建築物の垂直加速度は一〇〇ガル程度に達することを報告している事実を認めることができる。

横田飛行場周辺において、航空機の飛行騒音等による家屋等の振動の程度を具体的に測定した資料は見当たらないが、右調査結果と前記の同飛行場における飛行状況・エンジンテストの状況からみれば、原告らの居住地のうち進入コース直下地域においては、右騒音等によりときとして窓ガラス・戸・障子・棚等に振動が生じ、また同飛行場に至近の距離にある中里地区においては、家屋の振動及びそれに伴う屋根瓦のずれ、外壁の剥落等の被害の生じる可能性は、これを肯認することができる。

三航空機の墜落及び落下物等の危険

昭和二七年二月七日横田飛行場所属のB二九爆撃機が埼玉県入間郡金子村に墜落し、死者若干名(その数について争いがあるが、これを確認するに足りる証拠はない。)、民家一三棟全焼の被害を出したほか、昭和三八年ないし同四四年までの間に、同飛行場所属の航空機による九件の墜落事故が発生し、死者若干名(その数について争いがあるが、これを確認するに足りる証拠はない。)、重軽傷者三一名、家屋の損壊二〇戸の被害を出したこと、昭和四〇年一月一五日昭島市拝島町(堀向地区)にF一〇五戦闘爆撃機が模擬爆弾を誤投下し、昭和四三年六月七日同市上川原町(青梅線南側地区)日枝神社境内に風防が落下したほか、国内各地で米軍機の部品の落下事故が起きていること、以上の事実は当事者間に争いがない。

また<証拠>によれば、昭和二六年一一月一八日B二九が離陸に失敗して立川市砂川町(中里地区)に墜落し、積載していた爆弾が破裂して死傷者及び家屋損壊の被害を出したこと、昭和三九年一二月二三日昭島市拝島町(堀向地区)においてF一〇五の超音速超低空飛行による衝撃波のため公衆浴場ほか数軒の民家の窓ガラスが破損し、外壁がくずれる被害を出したこと、昭和四〇年二月一六日同型機が青梅市に墜落したこと、同年五月五日同型機が相模原市に墜落したこと、昭和四二年二月一日同型機が府中市南部の多摩川原に墜落したこと、昭和四四年一月一二日F四が埼玉県元狭山に墜落したこと、昭和四六年一二月二〇日横田飛行場内において大型ヘリコプターが墜落したことのほか、昭和二六年から同五一年までの間に、昭島市拝島町、上川原町、西多摩郡瑞穂町、羽村町などで、同飛行場所属の航空機による模擬爆弾・曳行標的・燃料補助タンク・風防・フラップ(胴体エアーブレーキ)・エンジンカバーなど一〇件余りの落下事故が起きていること、以上の事実を認めることができる(なお右に認定した事実のうちには、前記の当事者間に争いのない事実の一部が含まれていると推測されるが、確認はできない。)。

第四被害

一はじめに

1  本件損害賠償の請求は、前記認定の航空機騒音等を原因とし、これにより横田飛行場周辺地域の生活環境が悪化したことにともない、同地域に居住し、またはかつて居住していた原告らが一般的に蒙つており、または蒙つていたもろもろの苦痛に対する慰藉料を求めているものであつて、右一般的苦痛をこえて原告ら各人につき生じている個別的な財産的・身体的・精神的被害に対する損害賠償を求めているものでないことは、原告らの弁論の全趣旨に照らして明らかである。従つて航空機騒音等を原因とするものではなく、横田飛行場の存在自体から原告らに生じている不利益及び航空機騒音等を原因とするものであつても、原告ら各人についての個別的被害は、本件慰藉料の請求を理由あらしめる事実に当たるものではないというべきである。

以下において、航空機騒音等が原告らの心身及び日常生活等に及ぼす影響について判断するが、その目的は、原告ら各人についての個別的被害の内容を認定するのにあるのではなく、右観点にたつて原告らが横田飛行場周辺の居住者として航行機騒音等によつて蒙つており、または蒙つていた一般的苦痛を評価するため、右評価に必要な航空機騒音等の侵害性、右騒音等による環境破壊の程度を明らかにしようとすることにあるのである。

2  以下横田飛行場周辺における航空機騒音等により原告らが蒙つている被害について検討するに先立ち、まず本件侵害行為のうちでその中心をなす騒音による被害の一般的特色について概観する。

<証拠>によれば、次のとおり認めることができる。

(1) 国立公衆衛生院生理衛生学部長田泰公らの説明によると、騒音が人体に影響を及ぼす過程として概略次のように考えられている。騒音は外耳から入つて内耳の感覚器管を刺激し、聴神経を経て大脳皮質の聴覚域に達し、音の感覚を成立させる。右過程において、騒音はその程度により聴取妨害・聴力損失(難聴)の被害をもたらす。このような聴覚経路における影響は、騒音に特異のものであり、直接作用といえる。一方感覚器管の受けた刺激は、脳幹網様体を経て大脳皮質全体に影響を及ぼし、大脳の精神作用を乱し、作業能率の低下・情緒不安定等の精神的・心理的被害を生ぜしめ、更に網様体を介して視床下部を刺激し、自律神経系の交感神経の緊張を強め、循環器・呼吸器・消化器等の内臓の働らきに影響を与え、また下垂体を通じて内分泌系のホルモン分泌のバランスを乱し、物質代謝の調節機能に影響を及ぼす。これらはいずれも騒音の非特異的影響であり、間接作用といえる。

これらの騒音のさまざまな影響の発現には、騒音自体の因子である音圧レベル・周波数構成・持続時間・頻度・衝撃性・これらの因子の変動性等のほか、人間及び人間と騒音の関係から生じる諸因子も深く関連しているのであり、これらの因子としては、性別・年令・身体及び精神の健康状態・体質及び気質・家族関係・社会関係・居住環境・騒音に対する馴れ・騒音源についての好意的または反情的評価等があり、これらの広範囲にわたる諸因子が相互に関連し、騒音の影響を修飾している。

このように騒音が人に及ぼす影響は、複雑な要素によつて修飾されるため、人によつて様々な態様において発現するが、大気汚染や水質汚濁等の公害が身体的影響を中心とするのと対比して、精神的心理的影響及び日常生活の妨害が中心をなしていることにその特色があるということができる。

(2) ところで人間をとりまく今日の複雑な社会環境において、ストレス作因(作用因子)の存在はあまりに多く、心身の症状が果して航空機騒音に起因するものか、或いは少なくとも航空機騒音がその一因をなしているとみられるか否かの判断は極めて難しく、これを的確に把えるには、騒音の状態の正確な認識とともに騒音による影響についての広範な科学的調査研究にまたなければならないことはいうまでもない。右研究に当たつては、実験室内における厳密に計算された騒音暴露下での実験結果とあわせて、現実の騒音に暴露されている地域住民の反応についての調査(アンケート調査)結果の検討も怠ることができない。実態調査による大量観察はその統計的処理と相まつて、実験室内での限定された条件下における研究結果の不足を補い、広範な騒音被害の実態を包括的につかむのにすぐれた面があるのであつて、その調査結果は各国において騒音対策や騒音の許容基準の設定等の基礎資料として用いられているのである。

二心身に及ぼす影響

(一)  難聴及び耳鳴

1 <証拠>によれば、原告らの陳述書または本人尋問において、原告ら本人または原告らと同一世帯に属する家族のうちで、現在または過去、殊に航空機騒音の激しかつた昭和四〇年から同四七年頃、耳鳴または難聴の被害を蒙つたことがあると訴えている者は、原告らのうち約半数に近いことが認められる。

また<証拠>によれば、昭和三九年拝二小職員について行つた健康調査において、同小職員中聴力障害を訴えた者が二四名中六名いたこと、東京都公害研究所の委託に基づき財団法人日本公衆衛生協会が昭和四五年七月横田飛行場周辺の騒音地域(NNI四〇台・五〇台及び六〇台)及び対照地域(NNI三〇台)の住民一〇〇〇名(そのうち対照地域の住民一五〇名)を対象として実施したアンケート調査(以下昭和四五年東京都アンケート調査という。)の結果、耳鳴を訴えた者は、NNI三〇台で約三パーセント、四〇台で一パーセント弱、五〇台で約五パーセント、六〇台で八パーセント強であり、NNI四〇台の地域と五〇台及び六〇台の地域との比較において統計上の有意差が認められたこと(因に右アンケート調査において耳の痛みを訴えた者は、NNI三〇台で〇パーセント、四〇台で一パーセント強、五〇台で二バーセント弱、六〇台で2.5パーセントで、各地域の間に統計上の有意差が認められず、また難聴一般についての調査結果は資料にあらわれていないので、アンケートの対象とされなかつたものと思われる。)、本件訴訟原告弁護団が昭和五一年三月本件訴訟原告団に所属する二〇六世帯の世帯代表者に面会し、回答を直接聞きとる方法で行つた調査の結果、過去を含めて難聴等耳に対するなんらかの異常を訴えた者の割合は26.2パーセントであつたこと、以上の事実を認めることができる。

そこで横田飛行場周辺におけるこれら居住者の訴える聴力の異常が航空機騒音の影響によるものと認められるか否かについて検討する。

2 <証拠>によれば、次のとおり認めることができる。

近代産業の発達とともに、工場等における強大な騒音に永年さらされている労働者の間に、騒音による職業性難聴者のいることが早くから知られていた。騒音性難聴は、三〇〇〇ヘルツないし六〇〇〇ヘルツの音域、特に四〇〇〇ヘルツ(音階の上でほぼC5に相当する周波数)付近の聴力の損失が大きいので、これを「C5dip」と称し、老人性または薬物の影響による難聴がより高い周波数から始まり、より低い周波数へ波及するのに対して、騒音性難聴の特色とされている。

ところで、広く難聴(聴力の域値移動)といわれる現象のうちに回復可能な一時的域値移動(NITTSまたは単にTTSという。)と回復不能な永久的域値移動(NIPTSまたは単にPTSという。)があるが、労働衛生の見地からPTSの発生を防止するための騒音許容基準を定めることが重要視された。しかるに騒音によるPTSの発生を確認するには永年の追跡調査を必要とするのみならず、これを実験することには人道上の問題もあるため、限られた資料に基づきPTSの発生を予測するための仮説が立てられるようになつた。そのうち一日を単位として耳に入る音のエネルギー総量を基準としてPTSを予測する考えを等エネルギー仮説といい、TTSとPTSとの間に深い関係があるとして一定時間騒音に暴露した後に生ずるTTSを基準としてPTSを予測する考えをTTS仮説といつている。アメリカ陸軍の諮問に対するアメリカ合衆国国立科学アカデミー聴覚・生物音響学・生物力学研究委員会(CHABA)の答申において、暫定的結論として、一日八時間・一〇年間暴露後のPTSは同一騒音に八時間暴露・二分間休止後のTTS(TTS2)と略記する。)にほぼ等しいとの見解が示されているが、これはTTS仮説に基づくものであることが明らかである。また昭和四四年日本産業衛生協会の勧告においても、TTS仮説に基づく研究を基礎として、騒音の許容基準が中心周波数・暴露時間毎にオクターブバンドベレベルで示され、四八〇分暴露に対する許容基準を騒音レベルであらわすとほぼ九〇ホンに相当すると説明されている。

もつとも、右仮説はあくまで仮説であつて厳密に実証されたものではなく、また難聴の原因として騒音の他にも加令・薬物・疾病などがあり、個体差のあることも考慮しなければならないから、右仮説をもつて直ちに各個人のPTSの予測にそのままあてはまるとはいえないであろうが、多数人の騒音被害を予防するための疫学的見地のうえからは、一般に信頼するに足りるものと考えられている。

3 <証拠>によれば、次のとおり認めることができる。

前記2に見たところは、主として工場その他の職場における騒音を対象としたものであつて、一日一定時間(主として八時間)の連続騒音ないしこれに準ずる断続騒音から、労働者の聴力を保護することを主たる目的とするものであつた。しかるに強大なジェット機騒音が登場するに及んで、飛行場周辺の一般住民保護のための調査研究が必要となつてきた。前者を職場騒音というとすれば、後者は環境騒音と呼ばれるにふさわしい騒音のひとつであつて、その特色は持続時間の短い騒音の反復(間欠騒音)であること、深夜早朝を含む二四時間暴露であること、被害者のうちに老幼病者が多数含まれていることなどにあり、その許容基準を考えるに当たつては、前者とは別段の考慮が必要とされるところである。

ところで騒音と難聴との因果関係を解明するには、その条件の複雑性の故に一般的にいつてもその研究が尽くされているとはいえないが、環境騒音としての航空機騒音に関する調査研究は、職場騒音に比して一段と立遅れているところであり、国際民間航空機構(ICAO)が一九六六年一一月二五日カナダのモントリオールで開催した「空港周辺における航空機騒音特別会議」における報告書のなかで、聴力に対する騒音障害の評価に使用されている基準は、現在のところ空港周辺において航空機騒音にさらされている聴力に障害を与えていないことを示している、としながらも、右基準は工場騒音と医学的聴力データに基づくものであつて、航空機騒音の特殊性を考慮して現在の聴力保護基準を改善する方向で研究を進める必要がある、と指摘しているのも、そのあらわれといえるであろう。

本件証拠資料にあらわれた航空機騒音と難聴に関する実証的調査研究の結果は、概略次のとおりである。

(1) 日本女子大学名誉教授(心理学専攻)児玉省は、昭島市医師会の委嘱に基づき、同市の協力を得て昭和四一年から五年間にわたり、横田飛行場周辺において航空機騒音が付近住民に及ぼす心理的影響について調査したが、その過程において某医大教授の協力のもとに実施した聴覚検査の結果の概要は次のとおりであつた。

(児童)

拝二小児童と対照校である東小児童の聴力損失の度合いを比較すると、前者の方が平均値では一〇〇〇ヘルツと八〇〇〇ヘルツを除いて全サイクルにわたつて損失が大きく、最大は四〇〇〇ヘルツでその差は6.7dB(右耳5.3dB、左耳8.0dB)であり、中央値では全サイクルにわたつて損失が大きく、最大は四〇〇〇ヘルツでその差は7.8dB(右耳7.0dB、左耳8.6dB)であつた。また四〇〇〇ヘルツで聴力損失が最大となる、いわゆるC5dip型を示す者が東小児童中にも三、四例みられたが、拝二小児童では一五例中二分の一ないし三分の一の者にみられた。

昭和四一年及び同四二年に実施した検査の総合において、平均値で八〇〇〇ヘルツを除いて拝二小児童の聴力損失が東小児童のそれより明らかに大きく、四〇〇〇ヘルツにおける損失の差が六年生において顕著であつた。

昭和四一年から同四四年までの拝二小児童に対する追跡調査(昭和四一年度三年生一五名、同四二年度四年生二八名、同四三年度五年生二四名、同四四年度六年生二〇名、ただし必ずしも同一人ではない。)によると、平均値で各学年を通じて四〇〇〇ヘルツにおける聴力損失が大きく(左右耳ともおよそ一四ないし一八dB)、C5dip型を示していることが注目されたが、六年生の損失の度合いが最も進んでいるとはいえなかつた。

(成人)

昭和四四年航空機騒音の激しい堀向地区、自動車騒音の激しい東中神地区及び騒音の影響のほとんどない青梅地区の各年令層の成人について聴力検査を実施した結果によると、二〇才位から三五才までの年令層については、青梅地区の者に聴力損失がほとんどなく、堀向地区及び東中神地区の者に聴力損失が認められ、四〇〇〇ヘルツにおける損失の度合いは東中神地区の者が最大であつた(平均値で東中神地区右耳約二二dB、左耳約一七dB、堀向地区右耳約一四dB左耳約六dB)。三六才から四五才までの年令層については、堀向地区の者の損失度合いが最大で、四〇〇〇ヘルツにおける損失は平均値で右耳約二一dB、左耳約一九dBであつた。なお四六才から五五才までの年令層についても四〇〇〇ヘルツにおける聴力損失が堀向地区及び東中神地区の者に顕著に認められたが、年令による減衰度が大きいことを考慮してその数値をあげることを避けている。

以上の児童、成人についての各検査結果から、児玉は、拝二小の児童は難聴にまで至つていないが、難聴化への過程にあると考えられるとし、かつ堀向地区における成人の場合を含め、その聴力損失の原因が航空機騒音によるものと断定することはできないが、その影響の可能性は否定できないと推論している。

(2) 騒音影響調査研究会(担当者京都大学工学部衛生工学教室山本剛夫教授ら)が昭和四六年以降大阪空港周辺において実際の航空機騒音を録音し、これを防音室内で再生し、実験した結果は、およそ次のとおりであつた。昭和四六年の実験において、ピークレベル一〇五ホン、一〇七ホンまたは一一〇ホンの騒音を被験者に反復聴取させ、聴力の損失を検査したところ、四〇〇〇ヘルツのTTSに関し、二分に一回暴露の場合、一〇七ホン及び一一〇ホンでは暴露回数が多くなるに従つてTTSがはつきりと増加し、一〇五ホンでは一五分以降において明らかな増加が認められ、四分に一回暴露の場合、一〇七ホン及び一一〇ホンでは増加の傾斜がゆるやかになるが暴露回数の増加にともなつてTTSが増加し、一〇五ホンでは五〇分以降において増加が認められ、八分に一回暴露の場合でも、一一〇ホンのみではあるが暴露時間の対数に関してほぼ一次式の関係でTTSの増加が認められ、ピークレベル一〇五ホン以上で四分に一回以上の頻度であれば、TTSの生じることが明らかになつたとされた。また昭和四七年の実験においては、ピークレベルを一〇〇ホンないし七五ホンに低下させ、暴露時間を長く(二分に一回の場合、一〇〇ホンでは九六回、それ以外では二五六回、四分に一回の場合は九五ホンのみで一二八回)して実験し、四〇〇〇ヘルツのTTSを検査したところ、その結果として、TTSは総暴露時間の対数に関して一次式の関係で増加する、TTSを生じるピークレベルの限界は七五ホンないし八〇ホンの範囲内にあると考えられる五dBのTTSを与える場合のNNIは四八ないし六〇、ECPNLは八二ないし九三、一〇dBのTTSを与える場合のNNIは五六ないし六三、ECPNLは八八ないし九五に相当する、と報告している。

(3) 財団法人航空公害防止協会が人体影響調査専門委員会(調査担当者東邦大学医学部耳鼻咽喉科岡田諄教授ら)に委嘱し、昭和五二年以降三年間にわたつて実施した調査結果(右調査においては、航空機騒音のみならず、新幹線騒音及び自動車騒音についても調査の対象となつているが、ここでは航空機騒音の調査結果についてのみふれる。)はおよそ次のとおりである。右調査においては、羽田空港付近の航空通路下においてB七四七の上昇時の爆音を録音し、これを防音室内において再生し、被験者に対して二分三〇秒毎に一回、八時間暴露して実験したところ、ピークレベルで九三、九六、九九、一〇二、一〇五ホンの騒音の暴露において四〇〇〇ヘルツのTTS2が四dB以上であつた者の割合は、それぞれ9.3、24.0、19.1、25.6、22.5パーセントであつた、ピークレベル一〇五ホン以下であれば八時間暴露後のTTS2は平均値で四dB以下である、九九ホン以上の騒音であれば聴覚になんらかの影響を与えることは否定できないが、一〇五ホンの騒音を八時間暴露した後でも三〇分経過後にはほとんど正常に回復する、と報告している。

また同委員会が昭和四七年から同五三年までにわたり、騒音の激しい大阪空港周辺地区、羽田空港周辺地区、福岡空港周辺地区、幹線道路に面する東京都江戸川地区並びに無騒音地区(農漁村)において実施した各年令層の住民の純音聴力域値検査結果において、同委員会は、きこえのレベルと年令との間の相関関係からは、有騒音地区と無騒音地区との間に差がなく、環境騒音の影響は認められなかつた、と報告している。

(4) 米国連邦環境保護庁(EPA)は、一九七四年三月公表した資料において、ほとんどの人を五dB以上のPTSから保護するために、四〇年間にわたり一日八時間・年間二五〇日の騒音暴露における許容基準をLeq(8)(等価騒音レベル)七三dB以下とすることが必要であり、これを環境騒音に適合させるため、暴露時間一日二四時間・年間三六五日として換算し、かつ間欠騒音の補正をするとLeq(24)71.4dB以下となり、これを安全側に引直し、居住地域等の屋外における騒音許容基準をLeq(24)七〇dB以下とすることが必要である。としている。因に京都大学教授山本剛夫の説明によると、Leq(24)七〇dBはWECPNLの値にするとほぼ八五に相当するということである。

4 まとめ

横田飛行場が軍用飛行場であり、そこで活動する航空機の大部分が軍用機であることの性質上、同飛行場周辺における航空機騒音(飛行騒音及び地上音)の状況は、前記のとおり時期的に大きく変動しているのみならず、一日一日をとつてみても一定性がなく、騒音レベル、周波数構成、持続時間、回数等についてもその概略を推認することができるだけで、正確に把握することはできない。また航空機騒音と難聴(TTSまたはPTS)との因果関係についてみても、実証的調査研究に基づく若干の貴重な資料があるとはいえ、各資料にあらわれた調査結果の間にかなりの相違がみられるのみならず、難聴の原因についての騒音側及び人間側の諸因子の複雑性及び相互性、検査対象の選択を含む検査方法の技術的困難性等を考慮すれば、右因果関係について断定的な結論を見出すには、未だ十分な資料がそなわつているとはいえないというべきであろう。

このような状況のもとで、横田飛行場周辺における航空機騒音と難聴との関係を的確に判断することは極めて困難であるといわざるを得ない。しかし前記の資料によつてみても、騒音がその程度のいかんによつてTTSの原因となり、これが長期間にわたり反復継続されるときはPTSの原因となり得ることは、これを肯認できるところであり、これと間欠騒音によるTTS発生に関する調査研究の結果、EPAの騒音許容基準に関する意見並びに横田飛行場周辺における航空機騒音の状況を総合し、これに人間の健康保持のために必要な慎重な配慮を加味して考えれば、同飛行場周辺地域のうちWECPNL八五以上の地域(中里地区並びに基地南地区・堀向地区及び青梅線南側地区の進入コース直下地域)においては、前記第二期を中心とする航空機騒音のもつとも激しかつた時期において、その居住者に対し、航空機騒音により聴力損失または耳鳴を生ぜしめ或いは従前の聴力の異常を増悪せしめる客観的危険性があつたことは、これを推認することができるといえるであろう。そうすると、原告らの陳述書及び本人尋問並びに財団法人日本公衆衛生協会、本件訴訟の原告弁護団による各アンケート調査において、難聴・耳鳴を訴える者につき個別にみると、その原因が航空機騒音にあるか否か明らかではなく、却つて他に原因があることが推認される者も少なくないが、全体的にみれば、航空機騒音がこれらの被害の原因の一部となつていることをまつたく否定することはできないと考える。

第三期以降においては、横田飛行場周辺における騒音発生回数及び騒音レベルの減少或いは後記防音工事の実施等により、航空機騒音による聴力損失の危険性は著しく減少したといえるものの、同時期以降においても前記航空機騒音の実情に照らし、前記の各地区に居住している者について一時的聴力損失の危険性から完全に免れているということはできないであろう。

前記人体影響調査専門委員会の調査結果も、未だ右認定判断を覆すに十分とは解し難く、他に右認定判断を覆すに足りる証拠はない。

(二)  その他の健康被害

1 <証拠>によれば、次のとおり認めることができる。

原告らの陳述書または本人尋問において、原告ら本人または原告らと同一世帯に属する家族のうちで、横田飛行場周辺地域に居住中に発現した現在または過去の疾患として、難聴及び耳鳴以外になんらかの身体上の被害を蒙つたことがあると訴えるものは、原告らの大部分に及んでいる。被害内容の主なものは、頭痛、肩こり、目まい(メニエル氏病)、高血圧または低血圧、心悸亢進その他の心臓疾患、胃腸障害、喘息、鼻出血、のどや目の痛み、不眠症、ノイローゼ、幼児のひきつけなどで、多種多様である。もつとも航空機騒音等がこれらの疾患の直接の原因とするものは少なく、右騒音等を間接的原因とし、これによる睡眠不足、焦燥感、不安感等の肉体的精神的疲労によつてひき起されたものであるとし、或いは右騒音等がこれらの疾患の治療に悪影響を及ぼし、症状を悪化、継続させているとする者が多い。

原告らが騒音による身体的被害の典型的例として挙げているのは、原告工藤千代子の夫亡工藤荒五郎の場合のことである、<証拠>によれば、次のとおり認めることができる。

工藤荒五郎(明治四三年三月二五日生)は、昭和二〇年四月以降堀向地区の進入コース直下に位置する昭島市拝島町四〇七九番地に居住していたところ、昭和三五、六年頃から本態性高血圧症に罹り、数回入退院を繰返していたが、入院中安定する血圧も退院すると悪化する状態で、次第に症状が進み、高血圧性心疾患、不安神経症、胃炎等を併発し、流感、リューマチ熱に感染して体力を消耗し、昭和四三年二月腸閉塞を起こして手術を受けた後、自宅療養中、昭和四四年一月九日全身衰弱のため死亡した。同人は右闘病生活中、航空機騒音が病身にこたえるとし、飛来する航空機に対して激しいいらだちや憎悪の感情をその手記にあらわし、妻の原告工藤千代子に訴えていたが、治療に当たつた医師橋本恒夫も、航空機騒音によるストレスが荒五郎の病状促進の因子と考えることができるとしている。

2 <証拠>によれば、航空機騒音による難聴及び耳鳴以外の身体上の被害に関するアンケート調査の結果として、概略次のとおり認めることができる。

(1) 三重県立大学医学部坂本弘らが昭和三三年某ジェット機飛行場(調査地区の暴露騒音最大値一三〇phon以上、暴露回数は一時間数回から一〇数回)の滑走路端から二、三百メートル離れた部落(戸数三〇戸、人口一三九人)の成人についてアンケート調査(以下坂本アンケート調査という。)を行つたところ、その結果は、全戸と農家別にみた場合、頭痛を訴える者は、全戸八九パーセント、農家九五パーセント、肩こりを訴える者は全戸六九パーセント、農家七六パーセント、疲れ易いことを訴える者は全戸六二パーセント、農家六八パーセント、心悸亢進を訴える者は全戸六一パーセント、農家六九パーセント、体重減少を訴える者は全戸五七パーセント、農家六五パーセントであつた。農家のみの方の訴え率が、全戸より高いのは、全戸の場合日中他所へ働きに出ている者がいるためと推測している。

(2) 昭和三九年実施した拝二小職員の健康調査において、同校職員二四名中ほとんど全員が疲労感、心悸亢進、頭痛、胃腸障害、心臓または肝臓疾患、自律神経失調等の症状が現在または過去における同校勤務期間中にあつたことを訴えている。

(3) 昭和四五年東京都アンケート調査の結果によると、身体的情緒影響を訴えた者(右アンケート調査において、身体的影響と情緒的影響は区別されず、同一の設問のなかに人れられていた。)の率は、NNI三〇台で約一〇パーセント、四〇台で約三〇パーセント、五〇台及び六〇台でそれぞれ約六〇パーセントで、そのうち身体的影響を訴えた者は、情緒的影響を訴えた者に比べて遙かに少ないが、身体的影響を訴えた者についてその内容(ただし耳鳴及び耳の痛みを除く。)をみると、頭痛・疲れ易さ・胸の動悸・胃の不調が多く、頭痛を訴えた者はNNI三〇台で一パーセント弱、四〇台で約六パセント、五〇台で約八パーセント、六〇台で約一〇パーセント、疲れ易さを訴えた者はNNI三〇台で一パーセント強、四〇台で約四パーセント、五〇台で約四パーセント弱、六〇台で約一〇パーセント、胸の動悸を訴えた者はNNI三〇台で二パーセント、四〇台で二パーセント弱、五〇台で約五パーセント、六〇台で約七パーセント、胃の不調を訴えた者はNNI三〇台で〇パーセント、四〇台で三パーセント強、五〇台で約三パーセント、六〇台で七パーセント弱であり、統計上NNI三〇台に比し四〇台以上において訴え率が有意差で増加していることが認められた。

3 <証拠>によれば、騒音が聴覚以外の生理的機能に及ぼす影響に関する調査研究として、次のとおり認めることができる。

(1) 呼吸器、循環器系機能に及ぼす影響

イ 国立公衆衛生院田多井吉之介らが健康な成人男子に対し、五五、七〇、八五ホンの三段階の航空機騒音、工場騒音及び街頭交通騒音と対照の三〇、四〇ホンの市街地騒音(いずれも録音再生)を、一日二時間・一〇間暴露して行つた実験において、血圧・脈拍数に差を見出せなかつた。別に実験において、前同様三段階のレベルの騒音(ただし工事騒音と街頭交通騒音の録音再生)を三〇分の休止をはさんで前後三〇分ずつ暴露したところ、騒音レベルの上昇とともに呼吸数の増加と脈拍数の減少がみられた。

ロ 前記児玉省が昭和四四年頃昭島市内の横田飛行場に近い診療所と対照地区の医院において、入院中の妊産婦につき航空機の上空通過時及び通過一五分後の血圧と毎日一定時刻における血圧の値を測定し、比較検討したところ、騒音に影響を見出せなかつた。

ハ 一二才から六〇才までの健康な男子に六五dBないし一〇五dBの騒音(自動車の警笛を録音再生)を、一分ないし三分の不規則間隔で各一二秒間暴露して実験したところ、手の皮膚温度が低下する反応があらわれ、その出現率は七〇dBで最低六八パーセント、九〇dBで九〇パーセントをこえ、右反応は騒音による血管の収縮が原因であると考察されたこと(Oppliger, G. vonu. Grandjean, E.)、七〇ないし九〇dBの騒音の暴露において被験者の指先の血管の収縮、脈拍振幅の減少がみられたこと(Fucks-Schmuck, A. u. Limon, CH.)、騒音の激しい職場の工員と激しくない職場の工員について循環器疾患の罹患率を統計的に検討したところ、前者の罹患率は28.88パーセント、後者の罹患率は7.59パーセントで、そのうち高血圧については前者は後者の約12.5倍、低血圧については約5.2倍、心筋障害については約二倍であつたこと(Meinhart, P. u. Renker, U.)、などが外国の文献にあらわれている。

ニ 動物実験(イヌ・ウサギ・ラットなど)において、騒音による呼吸数の増加・心拍増加・血圧上昇・皮膚抵抗の低下などの一過性の反応のあらわれることが、内外の多数の実験で実証されている。

ホ EPAの前記資料において、これまでの実験例からみると、騒音暴露により人の血圧・脈拍数の変化に一定の傾向は認められず、少なくとも一〇〇dB(SPL)の強さまでは無視できるようである、と記載されている。

(2) 消化器系機能に及ぼす影響

イ 二一才ないし三一才の健康な男子に一〇〇ないし一二〇ホンの航空機(ジェット機)エンジンテスト音(録音再生)を三〇分ないし六〇分暴露した実験において、胃運動の抑制、胃液分泌の減退、胃酸の変化(暴露前に胃酸の値の低かつた者は増加し、高かつた者は減少した。)がみられたこと(Kim, C. Y., Ryu, J. S., Hong, S. S.)、八五ないし一一五dBの騒音下の職場で働いている労働者と七〇dBの職場で働いている労働者についての統計的調査において前者の胃潰瘍の発生率が後者より高いことを示したこと(Kirkova, Komorokova)、などが外国の文献にあらわれている。

ロ その他、人または動物実験において、騒音レベルが大きくなるに従つて、唾液及び胃液の分泌量の減少、胃活動の低下の現象があらわれることが、内外の文献に報告されている。

(3) 血液に及ぼす影響

イ 前記田多井吉之介らの実験において、五五ホンの騒音暴露でも、対照実験に比して総白血球数の増加の抑制及び好酸球数の減少とその回復の抑制がみられ、その影響は八五ホンでもつとも強くあらわれ、また個体差が大きかつた、としている。

ロ 前記長田泰公らは、(a)健康な男子大学生に、七〇、八〇、九〇ホンの三段階の航空機騒音(録音再生)を二分または四分に一回、九〇分暴露した実験において、騒音レベルの上昇とともに、好酸球数及び好塩基球数の減少率が大きくなる、白血球数の変動には一定の傾向がみられない、赤血球数の変動も白血球数のそれに似ているが、七〇ホンの場合の変化(減少)が他の場合に比して大きく、頻度の差も有意であつたとし、(b)前同様男子大学生に、中央値四〇、五〇、六〇ホンの自動車騒音(録音再生)を二時間暴露した実験において、六〇ホンの暴露の場合に、白血球数は有意に増加し、好酸球数は減少後の回復がおくれ、好塩基球数には有意な変化が見られず、結論として血球数への影響の出現域は五〇ホンと六〇ホンの間にあると考察している。

ハ その他動物実験において、赤血球数及び好酸球数の減少、白血球数について減―増の二相性、血糠値の上昇、副腎静脈の血中カリウムの上昇、血中アドレナリンの増加などを示した例が、内外の文献にあらわれている。

(4) 内分泌系機に及ぼす影響

イ 前記田多井吉之介らの実験において、尿中一七―OHコルチコステロイドの量は七〇ホンで増加が最も大となり、八五ホンでは却つて減少することを実証し、個体差が大きいが、副腎皮質ホルモンの分泌は騒音の刺激で増大するが、ある限度をこえると減少するものと考察している。

ロ 前記長田泰公らは、前記(a)の実験において、尿中一七―OHコルチコイドは騒音レベルの上昇によつて増加するが、あるところから減少し、右増加は二分に一回の暴露より四分に一回暴露の方が大きく、ECPNL値との相関関係は得られなかつたこと、(b)の実験において、尿中一七―OHCSは四〇ホンの騒音の六時間暴露において増加がピークに達し、そのあと排出抑制がみられ、尿中ノルアドレナリンもこれと類似の変化を見せたことを報告している。

ハ 三重県立大学医学部坂本弘らは、九〇ないし九五dBの騒音下の紡績工場で働いている女子作業員について調査した結果、一〇時間前後の作業により尿中一七―ケステロイド(KS)が減少していることを明らかにし、右減少は、騒音暴露によつて緊急反応(Emergency Reaction)が起り、アドレナリンの分泌が高まるにもかかわらず、間脳―下垂体の機能を減退させ、副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)の分泌が減少したことによるものと考察している。

ニ 同大学医学部若原正男らは、一九才ないし二二才の健康な男子に広周波数帯の一〇〇phnoの騒音を四時間暴露した実験において、尿中総中性一七―KSの著明な減少を認め、また二一才ないし二五才の男子に対する追加実験において、尿中一七―KSの減少は一〇〇〇サイクル前後の周波数で最も著しく、九〇phon以上では減少反応が確実に起り、八〇phon以上では個体によつて反応が起ることを認め、右減少の主因は副腎皮質索状層からの一一―OXY―一七―KS及び性腺系ステロイドの減少にあると考察している。

ホ 科学技術庁研究調整局の報告書(昭和四二年三月)によると、五五ホンの騒音暴露において尿中一七―OHコルチコイドとウロペプシンの量は、対照実験に比して低下度が抑制され、ストレスの影響を受けていると判定されたが、騒音レベルによる差違はほとんど検出できず、また騒音がある程度以上に強まると副腎皮質ホルモン分泌量が抑制されるという現象もみられなかつたとしている。

ヘ その他動物実験において、騒音の副腎皮質に及ぼす影響が亢進、減退の二相性を示すこと、長期間の暴露において馴れの現象があらわれることを示す内外の多くの文献がある。

(5) 胎児及び妊産婦に及ぼす影響

イ 高橋悳他一名は、某ジェット機基地周辺における昭和三九年一月から昭和四〇年七月末までの出生児の保護者に対するアンケート調査(回答者二七三名)の結果、未熟児出生率が6.6パーセントで、昭和三六年度の未熟児出生率全国平均4.2バーセントを上廻つていたことを、人類学雑誌に発表している。

ロ 伊丹市空港対策部は、その調査報告書(担当者神戸大学工学部安藤四一、同大学医学部服部浩)において、昭和三六年から同四四年までの間に、大阪国際空港周辺の騒音激甚地区である伊丹市内と対照地区の高槻・吹田・茨木・西宮各市で生れた新生児の出生時体重を調査し比較したところ、ジェット機がほとんど飛んでいなかつた昭和三六年ないし同三八年には、伊丹市における新生児出生時体重は周辺都市のそれよりもやや重い傾向にあつたが、ジェット機が定期的に就航し始めた昭和三九年には周辺都市との差がほとんどなくなり、昭和四〇年以降に至つては、男女とも明らかに軽い方にずれていることを明らかにしている。

ハ 前記騒音影響調査研究会は、その調査報告書において、伊丹市では昭和三六年ないし同三八年当時の出生児の平均出生児体重が周辺都市に比べてやや重い傾向にあつたところ、ジェット機の就航により騒音の激しくなつた昭和四〇年ないし同四二年において低出生時体重児、低出生時身長児の生れる率が明らかに増加し、伊丹市内のECPNL九〇dB以上の地域とそれ以下の地域の比較においても、前者における低出生時体重児、低出生時身長児の増加が目立ち、この傾向は昭和四四年、同四五年にも続いている、また母体の妊娠中毒罹患率も他の地区より高く、しかも航空機騒音が激しくなるに従つて増加していることを明らかにし、このような低出生時体重児、低出生時身長児、妊娠中毒罹患率の増加の原因として、航空機騒音によるストレスが母体の副腎皮質に持続的な影響を与え、血液中のコルチコイドが増加したためと推測している。

ニ 前記児玉省は、その調査研究において、昭和四二年から同四四年までの間の昭島市内の診療所と対照地域としての立川病院における未熟児出生に関する資料に基づき、昭和四四年を除いて昭島市内の診療所の未熟児出生率が立川病院のそれよりやや高かつた(昭和四二年昭島市内6.94パーセント、立川病院五パーセント、昭和四三年昭島市内5.9パーセント、立川病院5.3パーセント、昭和四四年昭島市内五パーセント、立川病院6.5パーセント)ことを明らかにしている。

ホ その他動物実験において、騒音の暴露により受胎率、出産率の低下及び奇型仔発生率、死産率の上昇の例が内外の文献にあらわれている。

(6) その他の影響

騒音(間欠音)の暴露により脳波にα波ブロッキング現象があらわれ、特に暴露開始時に持続的であつた例、九八ないし一〇五dBの短時間暴露により色覚が赤色弱に傾き、夜間視力が減退し、或いは深度感覚及び眼内圧に影響を与え、散瞳を起こした例、一日八時間一一〇ないし一二四dBの騒音下の職場で一年ないし四年間働いている工員のうちに永久性と思われる視野狭窄が発見された例、一〇〇dBの騒音下のボイラー製造工場で働いている工員のうちに約10.5パーセントの赤色視野狭窄が発見された例、一二〇dBで眼振、目まい、平衡障害を生じた例、などが内外の多数の文献にあらわれている。

4 まとめ

(1) 以上の人のまたは動物についての諸研究を通じてみると、騒音が聴覚以外の生理的機能に及ぼす影響として、末梢血管の収縮・血圧の上昇・呼吸促進・脈拍増加または減少・唾液及び胃液の分泌量の減少・胃腸活動の抑制・皮膚抵抗の減少・血糠値の増加・血球数の増加または減少・副腎皮質ホルモンの変調・脳波の変化・視野狭窄・眼振・目まいなどが実証され、これらの影響は短期の暴露においては一過性のものであるが、長期にわたり反復継続されるときは、高血圧・心臓及び内臓疾患などの一因となり、肉体的精神的疲労となつて病気に対する抵抗力を弱め、或いは母体の血液を通じて胎児に影響し、未熟児の出生または妊娠中毒の原因となる危険性のあることが明らかにされたということができる。

(2) もつとも、これらの実験例をみても、騒音の生理的機能に及ぼす影響は、特に人体において必ずしも一定の傾向を示さず、消極的結果を示す例も少なくない。その理由としては、騒音の生理的機能に及ぼす影響が自律神経系ないし内分泌系の作用を介しての間接的・非特異的影響であること、人間の生理的機能の複雑性、生理的作用と精神的作用との相互関連性、素質の個体差、馴れの効果などがあげられ、「人体の複雑さは底深いものであり、人間の精神的機能と相まつて騒音による刺激に覚醒された健康に及ぼす作用を定量化することは極めて困難である。」(EPA)といわれている。

しかも、横田飛行場周辺において現実に生じている航空機騒音の影響に関しては、騒音側の条件をみても、人間側の条件をみても、実験室内はもとより、特定の職場内における騒音の影響とはくらべものにならない程複雑であつて、前記の諸研究の結果をもつて直ちに原告らまたは原告らの家族が訴えている個別的健康被害と航空機騒音との間の因果関係を認定し、その将来を予測することは到底不可能であるといわざるを得ない。

(3) しかしながら、個別的健康被害との因果関係を認定し将来を予測することが不可能であるとしても、前記第三一で認定した横田飛行場周辺の航空機騒音の状況に照らしてみると、同飛行場のフェンスから三キロメートル離れた大神町測定点における昭和五二年の騒音状況は、七〇ホン以上の測定回数が一日平均約三八回、このうち昼間の平均約三〇回(約二四分に一回)、夜間の平均八回(九〇分に一回)、右騒音のピーク値の算術平均値八六ホン、七〇ホン以上の持続時間が一回平均約13.4秒、一日平均約八分三五秒、WECPNL八五、NNI五一、騒音ピーク値のパワー平均値九四ホンであつて、右ピーク値の算術平均値は、右各研究中かなり多くのものについて反応が認められた騒音の下限レベルをこえていること及び後記認定の睡眠妨害及び精神的影響等にかんがみれば、右騒音が同飛行場周辺、特に進入コース直下地域の住民に一過性の生理的悪影響を及ぼし、これが永年続くときは健康を害し、高血圧・心臓その他の内臓疾患を有する者の症状を悪化させ、その治療の効果を妨げ、未熟児の出生率を増加させる等の危険性のあることは、否定できないと思われる。前記工藤荒五郎の場合についてみても、航空機騒音が同人の発病または死亡の原因であると認めることはできないが、右騒音が高血圧・高血圧性心疾患・胃腸障害等に悩む同人の苦痛を加重し治療の効果を妨げたことは否定できない。ただし原告らの居住地のうちWECPNL八五未満の地域については、その騒音レベル及び頻度の関係から、これらの健康被害の危険性は、一過性の影響を除いて極めて低いものと考えられる。

(4) また排気ガスの健康に及ぼす影響に関しては、第記第三、二、(一)で認定したところによれば、横田飛行場周辺において航空機が排出する一酸化炭素、炭化水素、窒素酸化物等の排気ガスの量は全体として膨大なものではあるが、大気内に拡散することによつて稀薄となり、気象条件によつてときには同飛行場に極めて近接した中里地区、基地南地区において濃度の高くなることはあつても一時的のものであり、原告ら居住者の健康に影響を及ぼす危険性のある程度のものとは認めることができず、他にこれを認めることのできる証拠はない。

(三)  乳幼児、小・中・高校生の発育に及ぼす影響

1 <証拠>によれば、次のとおり認めることができる。

(1) 体格

イ 前記高橋悳らの調査研究によると、某ジェット機基地周辺に居住する乳幼児、小・中・高校生の体格検査の結果、基地から二五〇〇メートル以内の地域とそれ以遠の地域との比較において、乳幼児には差がなく、小学六年生の胸囲・体重、中学三年生及び高校三年生の身長・胸囲・体重において有意差が検出され、高学年の児童生徒に航空機騒音による発育阻害が認められるとしている。

ロ 前記伊丹市空港対策部の報告書によると、昭和四七年及び同四八年における伊丹市、豊中市及び川西市の三才児検診データの分析の結果、伊丹市の幼児(特に男児)は身長において他の都市の幼児よりやや劣るが、体重・胸囲においては差を認めることができないとしている。

ハ 前記騒音影響調査研究会の報告書によると、昭和四六年伊丹市及び周辺の対照都市群において昭和四〇年ないし同四二年に出生した幼稚園児(当時四才ないし六才)の体格を検査した結果、伊丹市の幼稚園児の方が平均身長及び体重においてやや劣り、伊丹市内のECPNL九〇dB以上の地域とそれ以下の地域においても同様の傾向がみられ、航空機騒音によるストレスの影響と推認している。

ニ 前記児玉省の調査研究によると、昭和四一年昭島市において、航空機騒音の激しい拝島町地区と対照の東町地区にそれぞれ居住する三才児の体格を検査した結果、拝島町地区の方が男児において優り、女児において劣つていたが、両地区とも全国標準を上廻り、昭和四〇年拝二小児童の体格を検査した結果においては、低学年及び高学年を通じて東京都の平均とほとんど差がなく、航空機騒音は三才児及び小学生の体格に目立つた影響を及ぼしてはいないと推論している。

(2) 知能

イ 伊丹市空港部が発表した報告書(担当者神戸大学工学部安藤四一)によると、伊丹市内の騒音激甚地区と対照地区の各小学二年生及び四年生を対象として航空機騒音(録音再生)または音楽を聞かせ或いは無刺激音の状態のもとで内田クレペリン検査を実施したところ、二年生及び四年生とも音響刺激によりV型落込みが増加したが、二年生では地域差が認められず、作業後半において順応性があらわれ、四年生では騒音地域の児童に作業の前半及び後半ともV型落込みが多くあらわれ、地域差が認められ、その結果「より深い階層における精神の平衡機能が日常的に存在する騒音の長期にわたる蓄積的影響によつて失われていることが考えられ、後半の作業においても同様であることから、この階層における順応性は期待できない。」と推論している。

ロ 前記児玉省の昭島市における調査研究の結果

昭和四〇年度において騒音の激しい堀向地区と対照の東町地区の乳幼児につき津守稲毛乳幼児精神発達検査を実施したところ、堀向地区の乳幼児の発達指数は東町地区の乳幼児のそれより劣つてはいたが、一般平均値と同程度であつた。また拝二小及び東小の各二年生及び六年生につき田中B式知能検査を実施したところ、拝二小児童の知能指数の方が東小児童のそれより少し高く、全体として田中B式知能偏差値の標準分布と比較して普通児群にあるとされた。拝二小及び東小の各六年生に内田クレペリン検査を実施したところでは、両校の児童の平均曲線はほとんど差がなく、いずれも定型曲線であり、作業量についても一般的水準にあつた。

昭和四一年度において拝二小の三年生及び六年生に、ジェット機騒音、街頭騒音、赤ん坊の泣き声などとこれを対照的なものとして小川のせせらぎ、音楽(以上いずれも録音再生)を組合わせ、その音響下において新制田中B式知能検査Ⅱ形式、WISC知能検査中から類似問題及び符号問題、DAT式適性検査から書記の速さと正確さの作業等の諸検査を実施した結果、ジェット機音下の作業能率が他の音響下または空白(暗騒音)下の作業能率を上廻つた。

昭和四二年度において音響種類をジェット機音と音楽(ベートーヴェンの田園交響楽)にしぼつて実験したところ、ジェット機音下の成績が楽音下の成績より多少上廻つたかまたは同じ程度であつた。

以上の結果につき児玉は、拝二小の児童は航空機騒音に馴れを生じているものと考察し、更に進んでジェット機騒音がなくては仕事が軌道に乗らないという中毒症状的状態になつているのではないか、と推測している。

2 まとめ

以上の調査研究の結果によれば、その一部に航空機騒音が乳幼児、小・中・高校生の身体的・知能的発育に悪い影響を及ぼしているとの疑いを抱かせる資料が存在していることは否定できない。しかし右調査研究のうちには、これらの影響につき消極的な結果を示す資料も存在しているのみならず、身体的・知能的発育には個人差その他の複雑な条件が影響していることにかんがみれば、前記の諸調査は基礎的資料において必ずしも十分なものとは考えられず、研究者によつて一応の推論を立てることは可能であるとしても、それは未だ仮説の域にとどまり、今後更に広範な調査研究を重ねなければ、一般的に信頼の得られる結論を見出すことは困難であるといわざるを得ない。

要するに、前記の諸調査研究をもつてしては、横田飛行場周辺における航空機騒音がその地域に居住する乳幼児、小・中・高校生の身体的・知能的発育に影響を及ぼし、または及ぼす危険性があるとはにわかに認めることができないというべく、他にこれを認めるに足りる証拠はない。

(四)  睡眠妨害

1 <証拠>によれば、次のとおり認めることができる。

原告らの陳述書または本人尋問において、原告ら本人または原告らと同一世帯に属する家族(殊に乳幼児、老人、病人)のうちで、過去または現在、横田飛行場周辺に居住している間、多少なりとも航空機騒音によつて夜間または昼間の睡眠を妨害されたことがあると訴えている者は、ほとんど全員に及んでおり、とりわけ第二期(ベトナム戦争当時)において妨害が激しかつたという者が多い。第三期以後においては、気にならないとする者が増加しているが、その理由としてあげているところは、本人の性格のほか、騒音度の低下、住宅妨音工事の施工、馴れの影響などである。それでも現在なお夜間一回ないし数回目をさまされるという者はかなり多い。時間的には、一日のうちで夜明け方の騒音、特に持続時間の長い地上音が妨害的であるとの訴えが目立つている。

2 <証拠>によれば、飛行場周辺の住民についての実態調査の結果として、次のとおり認めることができる。

(1) 昭和三九年九月拝二小において、同校児童を調査したところ、四四四名中三三七名(約七六パーセント)が、夜間航空機騒音を気にしないで眠ると答え、その余の一〇七名(約二四パーセント)が、同騒音により眠りを妨げられると答え、そのうち妨げられる回数を、一週間中三日とした者が四一名と最も多く、毎日とした者は八名で第五位であつた。

(2) 前記坂本弘らが某ジェット機基地周辺において実施したアンケート調査の結果では、睡眠妨害の訴え率は全戸五二パーセント、農家のみで五九パーセントであつた。

(3) 関西都市騒音対策委員会が昭和四〇年一一月に発表した報告書によると、大阪国際空港周辺の八都市におけるアンケート調査の結果、睡眠妨害の訴え率はNNI四五ないし四九以上になると急に増加し、同五五ないし五九の場合約三五パーセントであつた。

(4) 前記昭和四五年東京都アンケート調査の結果では、夜間の睡眠妨害の訴え率はNNI三〇台で約二〇パーセント、四〇台で二五パーセント、五〇台及び六〇台で各四〇パーセント、昼寝の習慣がある者についての昼寝の妨害の訴え率はNNI三〇台で約三〇パーセント、四〇台で四〇パーセント、五〇台で六五パーセント、六〇台で七〇パーセントで、いずれの場合でもNNI三〇台の地域と同四〇台以上の地域との間に統計上の有意差が検出されている。なお右アンケート調査では、航空機騒音とその他の自動車騒音・工場騒音等とが区別されていないので、NNIの低い地域での訴えは主として自動車騒音によるもの、高い地域での訴えは主として航空機騒音によるものと解されている。

(5) その他東京及び関西における騒音の激しい地域でのいくつかのアンケート調査の結果、一般的に家屋内で騒音レベルが五〇ないし六〇ホン、病院内では四〇ないし四五ホンに達すると睡眠妨害の訴え率が五〇パーセントを超える例が多いと報告され、またロンドン・ヒースロー空港周辺でのアンケート調査の結果では、睡眠妨害の訴え率はNNI四〇台で四〇パーセント、五〇台で五五パーセントであつたといわれている。

3 <証拠>によれば、騒音の睡眠に及ぼす影響についての研究結果として、次のとおり認めることができる。

(1) 労働科学研究所の大島正光らが二〇才ないし三九才の研究所員四名を対象とし、五〇〇サイクル、五〇ないし七〇phon、持続時間三秒の純音を用い、三〇秒ないし五分間隔のアトランダム配列の騒音暴露による実験の結果、就眠の妨害となり、覚醒を促進する騒音の下限は四〇ないし四五phonで、影響の度合いは覚醒時より就眠時に大きかつた、としている。

(2) 前記騒音影響調査研究会が昭和四四年以降数年にわたり航空機騒音が睡眠に及ぼす影響について研究した結果は次のとおりである。

イ 成人男子を対象とし、ピーク値六五、七五、八五ホン、持続時間一七秒のジェット機騒音(録音再生)を用いて実施した実験の結果、全睡眠時間中深い睡眠の占める割合が減少し、睡眠深度の変化がひんぱんになる、七五ホンの騒音により浅い睡眠状態にある者に覚醒する者があらわれ、八五ホンで中位の睡眠状態で覚醒する者があらわれる、睡眠深度の変化を生じた者の割合は、六五ホンで51.5パーセント、七五ホンで61.7パーセント、八五ホンで78.2パーセントと増加する、実験第一、第二夜に比して第三夜においては深い睡眠の占める割合がもとに戻り、馴れの傾向があらわれた。

ロ 二才六ケ月ないし四才の幼児を対象とし、ピーク値六五、七五、八五、九五ホン、持続時間一七秒のジェット機騒音(録音再生)を用いて実施した実験の結果、各騒音度により脳波、心電図、容積脈数、筋電図に統計上の有意差が検出され、かつ騒音の激しい地域の幼児と対照地域の幼児との比較で、僅かながら騒音に対する馴れの傾向がみられた。

ハ 妊娠前または妊娠五ケ月以内に騒音の激しい地域に転入した母胎から生れた乳児は、騒音に対しほとんど興奮することなく、静かに眠つていた。この現象につき研究担当者は、胎児の間に騒音に順応するよう神経系もしくはホルモン系の発達に影響が及んでいるのではないかと推測している。

(3) 前記長田泰公らは、男子学生を対象とし、騒音が睡眠に及ぼす影響について一連の実験をした結果、概略次のとおり報告している。

イ 四〇ホンと五五ホンの工場騒音及び道路交通騒音(いずれも録音再生)を用い、六時間の連続暴露による実験において、脳波、血球数等の検査の結果、四〇ホンで睡眠深度が浅くなり、好酸球数及び好塩基球数は四〇ホンで増加が仰制され、五五ホンでは減少した。なお被験者は騒音に気づかず、熟睡していた。

ロ 次いで四〇ホン及び六〇ホンと騒音(白色騒音と一二五ヘルツ及び三一五〇ヘルツの各三分の一帯域騒音の三種)を用い、三〇分に一回、2.5分連続と一〇秒on、一〇秒offの断続騒音(on時間の合計2.5分)を配列した実験において、覚醒期脳波の出現回数が前回より多く、睡眠深度も浅くなり、好酸球数及び好塩基球数の変化は前回の四〇ホンと五五ホンの中間位で、断続騒音も六時間連続騒音と同程度の睡眠妨害をもたらした。

ハ 更に五〇ホンと六〇ホンの列車騒音、航空機騒音(いずれも録音再生)の間欠的暴露と四〇ホンのピンクノイズの連続暴露による別の実験において、四〇・五〇・六〇ホンの順に睡眠深度が浅くなり(ただし有意差は検出されない。)、また睡眠段階が十分深くなるまでの時間は有意に延長され、四〇ホンのピンクノイズに比して六〇ホンの列車騒音、航空騒音では三ないし四倍を要した。

ニ 以上の一連の実験結果から、長田らは、騒音の睡眠に対する影響は騒音レベル・頻度と人間側の諸条件によつて複雑に修飾されるが、三〇分に一回の断続騒音であつても、六時間の連続騒音と同程度の影響があり、夜間の睡眠を保護するには連続した静かさが必要であると推論している。

(4) その他、睡眠中の成人男子を対象とし、騒音下の脳波、心電図、精神電流反射等の変化をポリゲラフにより観察し、衛生的見地からみた夜間の騒音許容値を低音で六〇dB、高音で五〇dBとする見解(斉藤和雄)、睡眠の有効な回復過程を保護するため夜間の騒音許容値は三五ホンをこえてはならないとするいくつかの提案(Karagodina, Grandjean, ほか)、睡眠の騒音に対する適合性(馴れ)について消極的または積極的意見などが文献にあらわれている。

4 まとめ

強大な騒音により睡眠を妨害され、疲労の回復を妨げられることは、われわれの日常経験するところである。もつとも騒音の睡眠に及ぼす影響は、騒音側及び人間側の複雑な諸条件によつて修飾されるのみならず、長期間展望においてどの程度の健康被害をもたらすかについてこれを明らかにする具体的な資料はなく、馴れの効果についても定説を見ない程であつて、現実の航空機騒音が飛行場周辺の住民に及ぼしている睡眠の妨害度、健康の被害度を定量化することはほとんど不可能というべきであろう。

しかし前記の実態調査及び実験研究の結果を総合してみれば、一般的にいつて家屋内で六〇ホン程度の騒音ともなれば、たとえ断続的騒音であつても、半数程度の者が就眠の妨害、覚醒の促進を訴えるようになり、五〇ホン程度でも、七、八割の者について睡眠深度が全体として浅くなり、血球数の変化(ストレスの増大)があらわれることは、十分に肯認できるところである。従つてこのような騒音の暴露下に年間三六五日ほとんど連日のように置かれている場合には、住民の受ける睡眠妨害の程度は重大なものというべく、疲労が蓄積し、老人または病弱者の健康に有害な影響の出る可能性があることは、否定できないところであろう。

ところで以上の結果に前記第三、一、(一)ないし(五)で認定した横田飛行場周辺における航空機騒音の実情、第四回及び第五回現場検証における当裁判所の騒音体験、ビデオ検証による最近のエンジンテストの状況を総合して判断すると、原告らの前記睡眠妨害の訴えは、いずれも信用するに足りるものであつて、第三期の始め頃までの睡眠妨害の程度は著しいものがあつたというべく、それ以降においては騒音レベル、頻度ともに軽減され、また後記の住宅防音工事の施工により一部改善されたとはいえ、原告らの居住地において現在なお相当数の者が多かれ少なかれ航空機騒音による睡眠妨害(就眠の妨害、覚醒の促進または睡眠深度の浅化)を受けつつあり、殊に中里地区、基地南地区及び堀向地区の進入コース直下地域においては、その程度が耐え難い状態にあることは、否定し難いところと考える。

(五)  心理的、情緒的影響

1 <証拠>によれば、原告らの陳述書または本人尋問において、原告ら本人または原告らと同一世帯に属する家族のうちで、現在または過去、横田飛行場周辺に居住している期間中、航空機が頭上を低空で通過し、或いは突如として爆音が鳴り響いてくる際、特に夜間において、墜落その他の事故に対する恐怖を覚え、日常生活においても不安感・焦燥感が昂じ、集中力が減退し、根気がなくなり、神経質になり、過敏な者はノイローゼになるおそれ、乳幼児にあつては強大な騒音に脅えて泣出し、身体を震わせ、大人にしがみつけ、ひきつけを起すなどの精神衛生面に受ける被害を訴える者は、原告らの約八割に及んでいることを認めることができる。

2 <証拠>によれば、次のとおり認めることができる。

(1) 昭和三九年九月拝二小で実施した前記健康調査の結果では、職員二四名中一〇名の者が、気分がいらいらし、或いは怒り易くなつたことを訴え、また同小職員がみた児童の性格についても、落着きがない、いらいらしている、あきつぽい、衝動的である、などが挙げられている。同様のことは同小職員が編輯した学習指導に関するパンフレットに再三指摘されており、証人小林スイ(拝二小教員)及び同木戸信子(堀向地区の保育園の保母)もこれを裏付ける趣旨の供述をしている。

更に瑞穂中学では昭和二七年三月頃校庭に待避場をもうけて避難訓練を行ない、拝二小においても昭和四三年以前から毎年避難訓練を行なつている。これらのことからみても、右地区において航空機事故に対する恐怖感がいかに切実なものであつたかを知ることができる。

(2) 前記児玉省が昭和四〇年以降昭島市で実施した各種心理検査の結果は、概略次のとおりである。

(小・中学生)

イ 情緒不安検査(アンケート方式)

昭和四〇年実施の調査において、拝二小児童は対照地区の児童に比して不安傾向、攻撃性が強くあらわれたが、拝島中学校(青梅線南側地区)の生徒については、対照地区の生徒との間に有意差が認められず、この結果につき児玉は、中学生に馴れの影響があるのではないかと推察した。

昭和四一年、四二年に実施した調査においては、拝二小及び拝島中の児童、生徒ともに対照地区の児童、生徒に比して不安傾向、攻撃性が強くあらわれ、前記拝島中の生徒について推察した馴れの影響は否定された。

昭和四四年実施の調査においては、対照地区の東小児童の情緒不安の傾向が拝二小児童よりも強くあらわれ、児玉はその原因について検討を要するとしている。

ロ ロールシャッハテスト

拝二小児童について情緒不安、衝動性の傾向が強くあらわれ、かつ航空機の連想に結びつく反応が多く、情緒不安検査の結果を裏付けていた。

ハ 握力検査

児童用スメッドレー握力計を用い、拝二小及び対照地区の小学校児童に対し、努力志向の検査を実施し、その結果により努力群・中間群・非努力群・放棄群に分類したところ、拝二小児童は低学年及び高学年とも、対照地区の児童に比して非努力群・放棄群に属する者が多く、根気の点で航空機騒音の影響を受けている可能性が暗示された。

ニ 語い連想検査

ケント・ロンザノフ語い連想検査方式を改訂した久保良英博士の検査方式を更に改訂した方式を用いて検査した結果、対照地区の児童に比して拝二小の児童には、快・不快その他の情緒的反応語または願望欲求に関する反応語が多くあらわれ、感情分析的に処理すると、不安・攻撃的傾向を示すものと解釈された。

(成人)

イ 情緒不安検査(アンケート方式)

堀向地区の若年令層にあつては、対照地区の同年令層に比して不安傾向・攻撃性が強くあらわれ、三〇才を過ぎると地域差が減少し、四〇才以後では逆に堀向地区の方が不安・攻撃性傾向が低くなつた。児玉は右現象につき、堀向地区の若年令層が性格形成期に騒音の影響を受けたことを推測させるものと解している。

ロ 握力検査

スメッドレー握力計を用いて努力志向を検査した結果、放棄群に属する者が対照地区(東中神地区)では七分の一に過ぎなかつたのに、堀向地区では三分の二に及んだ。

(3) 昭和四五年東京都アンケート調査で、身体的情緒的影響を訴えた者の割合は前記のとおりであるが、そのうちで情緒的影響を訴えた者は身体的影響を訴えた者に比して遙かに多く、その主な項目は「気分がいらいらする」「不愉快」「頭にくる」「しやくにさわる」で、「気分がいらいらする」との訴えは、NNI三〇台で約三パーセント、四〇台で約一七パーセント、五〇台で約二六パーセント、六〇台で約三二パーセントに上り、右各項目についてNNI三〇台の地域と四〇台以上の地域との間で統計上の有意差が検出された。これに対し「びつくりする」「落つかない」「うつとうしい」「注意が散漫になる」との訴えは比較的少なかつた。

(4) 前記関西都市騒音対策委員会の報告書によると、大阪国際空港周辺の八都市の住民に対するアンケート調査の結果、「気分がいらいらする」「腹が立つ」「不愉快になる」「気がめいり、うつとうしくなる」「安静がたもてなくなる」「びつくりする」などの情緒的訴えは、NNIが高まるにつれて急傾斜で増加し、NNI四〇ないし四四で訴え率は九〇パーセントに達するとしている。

(5) 一九七一年七月二九日シカゴで開催されたアメリカ環境保護局主催の公聴会の報告のなかで、航空機の衝突墜落などの危険が騒音による住民の苦痛を増加させているとの指摘がなされているほか、空港周辺の住民の苦情のなかで墜落等の事故に対する恐怖感が大きな割合を占めているとの報告が、いくつかの文献にあらわれている。

3 まとめ

(1) 以上1及び2に摘示した各資料に前記第三、一及び三で認定した航空機騒音及び墜落その他の事故に関する事実並びに映画検証、第一回ないし第五回現場検証の結果を総合してみれば、原告らの居住地区のうち航空機が低空でひんぱんに通過する進入コース直下地域においては、墜落その他の事故の発生する危険性は一般の居住地域に比して特段に高いものがあるというべく、またF四、F一〇五などの超音速戦闘機の音圧レベルの高い爆音の衝撃性、C五、C一四一、DC八などの大型機から受ける重圧感、殊に夜間強大な爆音とともにライトの照射が屋内に差し込むときの威圧感を考えると、直下地域の居住者が受ける精神的圧迫は、通常の都市生活のうえで不可避的に生じるストレス作因に比して異常に大きいものといえるであろう。従つて右直下地域に居住する原告らが訴える恐怖感をもつて合理的根拠がないとしてこれを斥けることはできず、また日常生活において不安感、焦燥感を覚え、気が短くなり、根声がなくなるなどの心理的情緒的影響を受けているとの原告らの訴えも単に主観的なものとして一概にこれを否定することはできないと考える。

もつとも第三期以降においては、横田飛行場からの超音速戦闘機の転出による騒音レベルの低下、飛行回数の減少により、これらの影響も大幅に改善されているといえるであろうが、進入コース直下地域、殊に飛行場に近接する中里地区、基地南地区、堀向地区に居住する原告らにとつて、その影響は現在なお無視することができないものがあるといえよう。

直下地域以外の居住者にとつても、右影響がまつたくないとはいえないであろうが、その程度は通常の都市生活において生じる他のストレス作因に比して特に異常といえるものであるとまでは認めることができない。

(2) なお原告らは、航空機騒音及び墜落その他の事故に対する恐怖のほかに、横田飛行場が戦時に他国の攻撃目標となるおそれがあり、また同飛行場内に核兵器または有毒ガス兵器が持ち込まれている疑いがあるとして、これに対する恐怖感を訴えているが、現在の国際情勢のもとで横田飛行場が他国から武力攻撃を受ける客観的脅威が存在するとは考えられず、また同飛行場内に核兵器、有毒ガスが持ち込まれているとの事実を認めるに足りる証拠はない(<証拠判断略>)。のみならず、このような事実は、原告らが本訴請求原因において侵害行為として主張している航空機騒音等とは直接の関係がなく、むしろ同飛行場の存在自体にかかわるものであるので、原告らが主張する右事実に基づく恐怖感は、既述のとおり本件損害賠償請求の対象たる被害とは性質を異にし、これと同様に考慮することはできないというべきである。

三生活妨害

(一)  会話及び電話の聴取並びにラジオ・テレビ・レコードの視聴等に対する妨害

1 <証拠>によれば、次のとおり認めることができる。

航空機騒音によつて会話や電話による通話が妨げられ、ラジオ・テレビ・レコードの音声が聞えなくなり、或いは航空機が頭上を通過する際、テレビの映像が乱れることを、原告らのほとんど全員がその陳述書または本人尋問において訴えている。近年に至つて騒音レベルの低下、飛行回数の減少がみられ、住宅防音工事の施工、騒音用電話機の設置、アンテナの改良等により、これらの妨害が若干改善されたという者もいるが、大部分の者は現在なお右妨害により家族の団らんを破壊され、対人関係が気まづくなり、営業に支障をきたし、作業能率が低下するなどの被害を受け、耐え難い状態であるという。

2 <証拠>によれば、次のとおり認めることができる。

(1) 昭和四五年東京都アンケート調査結果をみると、横田飛行場周辺地域におけるNNIの値の増加と住民の「家族との会話」「電話による通話」及び「ラジオ・テレビ・レコードの聴取」に対する妨害の各訴え率の増加との関係に、共通した傾向があらわれ、右訴え率はいずれもNNI四〇台で五〇パーセント前後、五〇台で九〇パーセントに達した。

これを項目別にみると、「家族との会話」に対する妨害(声を大きくする及び会話を中断するの合計)の訴え率は、NNI三〇台で約三〇パーセント、四〇台で約五〇パーセント、五〇台で約九〇パーセント、六〇台で約九五パーセントで、そのうち「会話を中断する」との訴え率は、NNI四〇台で約二〇パーセント、五〇台で約七〇パーセント、六〇台で約九〇パーセントであつた。「ラジオ・テレビ・レコードの聴取」に対する妨害(音声を大きくする、非常に大きくする及び非常に大きくしても聞えないの合計)の訴え率は、NNI三〇台で約三〇パーセント、四〇台で約七〇パーセント、五〇台で約九〇パーセント、六〇台で約九五パーセントで、そのうち「非常に大きくしても聞えない」との訴え率は、NNI四〇台で約14.8パーセント、五〇台で約55.6パーセント、六〇台で約75.2パーセントであつた。「電話による通話」に対する妨害(聞き返す、声を大きくする及び通話を中断するの合計)の訴え率は、NNI三〇台で約四四パーセント、四〇台で約四五パーセント、五〇台で約九四パーセント、六〇台で約九八パーセントで、そのうち「通話を中断する」との訴え率は、NNI四〇台で約三一パーセント、五〇台で約八六パーセント、六〇台で約九六パーセントであつた。なお「テレビの映像の乱れ」の訴え率は、NNI四〇台で約六〇パーセント、六〇台で約八〇パーセントであつた。

会話妨害を訴えた者について、その騒音源を調査したところ、飛行騒音六六パーセント、エンジンテスト音一三パーセント、その他は自動車騒音、工場騒音、鉄道騒音であり、騒音源としてエンジンテスト音をあげた者のうちの八〇パーセントと飛行騒音をあげた者のうちの六八パーセントが会話を中断されると訴え、他の騒音源に比して妨害度が大きいことを示していた。他の訴えについても騒音源の比率はほぼ同じであり、全体として飛行騒音がもつとも大きな割合を占め、場所によつてエンジンテスト音が目立ち、NNIの値が低下すると、自動車騒音の占める割合が増加した。

(2) 前記長田泰公は、横田、大阪、千歳、ロンドンの各飛行場周辺における住民の実態調査の結果を比較検討した結果、会話及びラジオ・テレビの視聴妨害の訴え率は、各地域ともNNIの値が高くなるとともによく似た割合で増加し、特に横田と大阪の傾向が一致し、ロンドン空港との比較では、NNI三〇台、四〇台ではロンドンの方が、NII五〇台では横田の方が高い訴え率を示したとしている。

(3) 関西におけるいくつかの騒音被害に関するアンケート調査の結果では、「各資料の間に若干の差はあるが)教室内で騒音レベルが四五ないし五〇ホンで聴取妨害の訴え率が五〇パーセントをこえ、一般住民において五〇ないし六五ホンで会話妨害、四五ないし五五ホンでラジオ・テレビの聴取妨害の訴え率がいずれも五〇パーセントをこえることを示している。

(4) 国立公衆衛生院小林陽太郎らは、単音聴取明瞭度(信号音レベル・signal levelと騒音レベル・noise levelと相対比・S/N比をもつてあらわされる。)についての実験結果から、信号音レベルがあまり低い場合でない限り、S/N比が三〇dBであれば右明瞭度は約九四パーセントであるが、同比が二〇、一〇、〇、マイナス一〇dBになると、明瞭度はそれぞれ約八五、六八、四五、一五パーセントと低下し、一般に教室内における明瞭度を八〇ないし八五パーセントにするには、S/N比は一五ないし二〇dB以上であることが要求され、教師の会話のレベルを七〇出とすると、許容騒音レベル(中央値)は五〇ないし五五dB以下とする必要があるとしている(なおこの実験で音圧レベルはCスケールであらわされている。)。

(5) 厚生省生活環境審議会公害部会騒音環境基準専門委員会作成の騒音環境基準設定資料(昭和四四年度)のなかに、普通の声による会話の場合、騒音レベルが四五ホンでは、聴取明瞭度は八〇パーセントをこえ、およそ四メートル離れたところで会話が可能であるが、騒音レベルが六〇ホン、七〇ホンとなると明瞭度はそれぞれ六〇パーセント、五〇パーセントに減少し、会話可能の距離は約1.3メートル、0.5メートルに短縮するとの実験結果が示されている。

(6) ロンドン・ヒースロー空港周辺の学校において、航空機騒音の授業に及ぼす影響を調査した結果、六五ホンで会話を中断する者が生じ、七〇ホンでそれが二五パーセント、七五ホンで四〇パーセントに達する、七五ホン以下であれば特定のまたは小人数の生徒に対する先生の説明は聴取可能であるが、七五ホン以上になると中断せざるを得なくなるとしている。

(7) 昭和三九年六月になされた「学校環境衛生の基準」についての答申において、教室内の騒音レベルは、窓を閉じているときは、中央値五〇ホン以下、窓を開けているときは中央値五五ホン以下、上限値は六五ホン以下であることが望ましいとしている。

(8) 前記EPAが発表した資料において、会話によるコミュニケーションを保護するために許容される騒音レベルは、屋内でLeq四五dB以下、屋外でLeq六〇dB以下であり、五dBの安全限界値を考慮し、許容騒音レベルを屋外でLeq五五dBとすることを提案している。

3 まとめ

強大な航空機騒音により日常生活のうえで会話及び電話による通話並びにラジオ・テレビ・レコードの聴取を妨害され、また航空機が頭上を低空で通過する際、テレビの映像に乱れの生ずることがあることは、原告らの訴えをまつまでもなく、経験則のうえからも明らかである。しかもこれらの生活妨害は、相手方との意思の疎通を妨げ、焦燥感をあおり、家庭の団らんを破壊し、営業に支障をきたし、作業能率を低下させるなど、広範囲にわたる間接的影響を及ぼすものである。航空機騒音の影響について広範囲な調査研究をなしたクライターは、飛行場周辺の住民の主な苦情は、第一に航空機騒音が会話等の聴取を妨害することに関連する事項であり、第二に睡眠と休息を邪魔することに関連する事項であり、第三に航空機の墜落に対する恐怖に関連する事項であつたといつている。前記の調査結果において、飛行場周辺地域における騒音レベル、頻度と住民の会話等の妨害に対する訴え率との間に高い相関関係があらわれているのも十分に理解できるところである。

そして右調査研究の結果と前記第三、一で認定した航空機騒音の実情を総合して検討すれば、航空機騒音の激しかつた第一期、第二期においてはもちろん、軽減された第三期以降においても、原告らの居住地域における航空機騒音の程度は、一般的にいつて会話及び電話による通話並びにラジオ・テレビ・レコードの視聴を保護するために必要な騒音許容レベルをこえているものといわざるを得ず、殊に進入コース直下地域においては、その妨害は耐え難いものであることが容易に推認できる。

なおテレビの映像の乱れは受像器の質の向上、アンテナの改善により大幅に軽減されるであろうし、会話等の聴取妨害も住宅防音工事の施工、騒音用電話機の設置によつて軽減されることが期待できるであろう。しかし右対策による救済は、これまでのところ一部の者にとどまつているのみならず、しばしば一〇〇ホンをこえる強大な騒音に見舞われている原告らにとつては、完全な救済となつていない。

(二)  思考、読書、家庭における学習その他の知的作業に及ぼす影響

1 <証拠>によれば、次のとおり認めることができる。

原告らの陳述書または本人尋問において、原告ら本人または原告らと同一世帯に属する家族のうちで、航空機騒音により思考、読書、家庭における学習、その他の知的作業を妨げられたものがいることを訴えている者は、右各項目をあわせて原告らの半数をこえている。右知的作業とは、精密機器の製造検査、カメラの修理、レンズの組立、製図、原稿の作成、タイプ打ち、コンピューターの回路設計、洋服の裁断、大工仕事、俳優のせりふ覚え、教師の授業準備、ピアノの練習、詩吟の稽古などであり、騒音による直接的妨害のほか、睡眠不足、情緒不安などによる間接的妨害を含めると、その影響は更に広範囲に及び、特に受験期にある子女を抱えている親の悩みは深刻である。

2 <証拠>によれば、次のとおり認めることができる。

(1) 昭和四五年東京都アンケート調査の結果では、思考及び読書に対する妨害の訴え率は、前記の会話、テレビ等の視聴に対する訴え率よりやや低く、NNI三〇台で約三〇パーセント、四〇台で約四〇パーセント、五〇台で約七〇パーセント、六〇台で約八〇パーセントであり、「じやまの程度」においては、NNI四〇台で「少しじやまになる」より「ふつう」に近く、五〇台では「ふつう」をこえ、六〇台では「かなりじやまになる」に達していた。

(2) 前記長田泰公らは、ジェット機騒音、新幹線騒音(各録音再生)及びピンクノイズなどの間欠音の暴露による実験において、ランプの点灯に対する選択反応の場合、五〇ないし八〇ホンの騒音で反応時間が促進したが、図形の数え作業の場合、六〇ないし九〇ホンの騒音で成績が低下したことを明らかにし、騒音は単純作業において促進的に、複雑な作業であれば妨害的に作用することが示唆されたとしているが、今の段階で定式を作ることは困難であり、実験方法の再検討を要するとし、明確な結論を出していない。

(3) 前記関西都市騒音対策委員会の報告書によると、大阪国際空港の八都市の住民に対するアンケート調査の結果、思考・読書に対する妨害の訴え率とNNIの値との間に相関関係が見出され、NII三五で「かなりじやまになる」との訴え率が五〇パーセントをこえ、子供の勉強に対する妨害の訴え率になると、NIIの値が高まるにつれて急傾斜で増加し、NNI三〇で六五パーセントに達するとしている。

(4) 福岡市板付基地移転促進協議会の編輯にかかる文献によると、町田恭三らが板付基地周辺の小・中学校の児童生徒を対象とした実験において、航空機騒音を暴露した実験組と静かな教室における対照組との間で、知能検査においては騒音の影響がみられず、クレペリン作業検査においては、騒音の影響は年少者ほど、また男子より女子に大きくあらわれ、殊に実験組では休憩効果があまりみられず、休憩後の動揺が大きく、更に問題解決力検査では実験組の成績が低下し、個人差が拡大したとしている。

(5) その他騒音負荷のもとでの計算テスト、選択反応テスト、図形のトレース作業等の実験において、騒音が促進的または妨害的に作用し或いは影響を見出さなかつた例がいくつか報告され、騒音レベルがある程度になるまでは促進的に、これをこえると妨害的に作用するとする見解、単純な作業では影響がないかまたはむしろ促進的になるが、複雑な作業では妨害的になるとする見解、一定の傾向を見出し難いとする見解などが文献にあらわれている。

3 まとめ

航空機騒音が思考、読書、学習その他の知的作業に及ぼす影響は、会話の聴取等に対する妨害のように直接的に作用するものではなく、人の精神作用によつて複雑に修飾されるため、その因果関係を科学的に究明することは困難であろう。しかし騒音がこれらの知的作業に影響のあることは、科学的証明をまつまでもなく経験則のうえからも否定できないところであり、前記一連の実態調査、実験結果からみても、騒音レベルが高くなるにつれ、また作業内容が複雑になる程、騒音の妨害作用が強まることはこれを肯認することができるところであり、その妨害の程度は、会話の聴取等に対する妨害より低いが少なくともNNI五〇以上になれば、住民の訴え率が五〇パーセントをこえるであろうことは推認することができる。

そして、横田飛行場周辺における騒音状況をみると、昭和四三年、四四年当時進入コース直下地域のうち飛行場に近接する地域ではNNI年間平均六五以上、南方四キロメートル以内では六〇以上、同飛行場の東西0.5キロメートル付近で六〇前後であり、その後騒音レベルが低下し、頻度も減少した昭和四七、八年当時同飛行場南方三キロメートルの直下地域でNNI五五前後、昭和五二、三年当時同地域で五〇前後であることなど、前記第三、一で認定した航空機騒音の状況に照らしてみると、原告らの前記の訴えはこれを肯認できるところであつて、騒音の激しかつた昭和四六年頃までの時期においては、原告らの居住地域全域にわたつて、騒音の状態の軽減したそれ以降の時期においても、進入コース直下地域では、思考・読書・学習その他の知的作業に及ぼす航空機騒音の妨害度は無視し離い程度に達しているものということができると考える。

後記住宅防音工事・公共用施設の充実などの被告の対策により、右妨害度は相当軽減されることが期待できるが、なお定全な救済といえないことは、前記会話の聴取妨害の項で述べたところと同様である。

(三)  対人関係に及ぼす影響

<証拠>によれば、友人や親戚の者が折角原告ら方を来訪し、また泊ることがあつても、航空機騒音に驚いて、なかには以後原告ら方に泊ることを避け、或いは来訪も遠のくようになるなど、対人関係にも影響が出ていることをその陳述書または本人尋問において訴える原告は、全原告のおよそ半数に及ぶことを認めることができるが、前記認定の航空機墜落に対する恐怖感や諸種の生活妨害等の事実に照らし、その程度の著しい時期、場所においては右のような事態も生じ得たところと思われる。

(四)  交通事故の危険

<証拠>を総合すれば、次のとおり認めることができる。

原告らのうちに、その陳述書または本人尋問において、航空機の爆音のため自転車・自動車・電車等の警報、走行音や踏切の警報などが聞えなくなり、或いは爆音に驚いて注意が航空機に奪われたり、運転中の自動車を思わず急停止させてしまうことなどのために、事故発生の危険性があると訴えている者もいる。

第四回及び第五回現場検証において、当裁判所はC五、C一四一、DC八などの大型ジェット機の爆音をその直下付近において聴取したが、その騒音はまことにすさまじく、屋外においては右原告らのいう警報音などをかき消すのに十分なものと感得された。またC一三〇などが訓練のため編隊を組み、低空で飛来する場合などには、その爆音が強烈であるばかりでなく、持続時間もかなり長くなることが推認できるところであり、第一回ないし第四回現場検証において明らかになつた原告ら居住地域の道路、鉄道の交通状況をあわせ考えると、航空機が低空で飛来する進入コース直下地域においては、右原告らの危惧する交通事故発生の危険性は根拠のないことではないと思われる。

(五)  家屋の振動、損傷

1 <証拠>を総合すれば、次のとおり認めることができる。

航空機が頭上を低空で通過しまたはエンジンテストの際、家屋が振動し、戸・障子が鳴り、棚の上の物が落ちることがあることを、その陳述書等において訴える原告は、全体のおよそ四分の一に及んでおり、とりわけ中里地区に居住している原告小山久子、同森田マサエ、同吉岡佳子及び同金井和夫は、航空機騒音の激しかつた昭和三九年ないし四四年頃に、それぞれの居住家屋が航空機の低空飛行またはエンジンテストの影響で振動し、屋根瓦がずれ、外壁やタイルが剥落し、壁と柱との間に隙間が生じたことを訴えている。右原告小山久子ら四名の住居は、滑走路南端からその延長線上南へ約二五〇メートル、東へ約一六〇メートル付近にあり、航空機がその付近の上空を超低空で通過する機会が多く、またその真正面でエンジンテストが行われている地域であつて、右原告らの訴える家屋の損傷は、自然の風化作用等によることも当然考えられるであろうが、航空機の低空飛行またはエンジンテストの際に生ずる振動・風圧の影響も寄与していることは否定できないと思われる。

右原告らの訴えを裏付けるものとして、横田飛行場周辺地域において航空機の低空飛行、エンジンテストの影響により家屋の振動等が生じていることを記載している昭島市の公報、新聞の報道、作家のルポルタージュがある。

なお、昭和三九年一二月二三日F一〇五の超低空飛行に伴う衝撃波によつて、堀向地区の公衆浴場及び民家数軒の窓ガラスが破損し、壁土がくずれるなどの被害が発生したことは前記のとおりであるが、その後このように激しい衝撃波を生じた事例は認めることができない。

2 以上の事実と前記第三、一、(二)ないし(四)及び二、(二)の事実を総合してみれば、ジェット戦闘機の飛行及びエンジンテストの激しかつた第一期、第二期当時進入コース直下地域において航空機の低空飛行、エンジンテストに伴う空気の振動・風圧には強烈なものがあり、窓ガラス・戸・障子などの振動はもとより、中里地区においては屋根瓦のずれ、外壁の剥落などの被害を生じていたところ、第三期以降において騒音レベル・騒音発生回数の減少及び後記のとおりの日米合同委員会の承認にかかる規制措置の結果、右影響は大幅に改善されたが、なお中里地区及び基地南地区・堀向地区の進入コース直下地域においては、大型機が低空で通過する際、窓ガラス・戸・障子などを振動させることがあり、これが前記の睡眠妨害・心理的情緒的影響の被害を加重させているものと思われる。

(六)  洗濯物等の汚染

<証拠>を総合すれば、次のとおり認めることができる。

原告らのうちで、その陳述書等において、洗濯物・屋根瓦・自動車・庭木などが航空機の排気ガスによつて汚染されていることを訴えている者が少数ながらみられる。また第一回現場検証の際、中里地区の原告金井和夫宅の庭先の物干竿に油煙様の黒い汚れが付着し、同地区内の原告吉岡佳子宅やその隣家の屋根瓦が全体的に黒つぽく汚染しながら一部陰になつている部分が鮮やかな青色を呈していたこと、第四回・第五回各現場検証及びビデオ検証において、航空機(特にジェット機)が離陸または暖機運転などの際に濃厚な黒煙を排出することが認められたところであり、右事実と前記第三、一、(二)ないし(四)及び二、(一)において認定した事実をあわせ考慮すると、航空機騒音等の激しかつた第一期、第二期においてはもとより、第三期以降においても進入コース直下地域のうち横田飛行場に近い中里地区・基地南地区・堀向地区及び青梅線南側地区北部においては、気候状況のいかんにより航空機の排気ガスのため右各地区に居住する原告らの洗濯物等が汚染され、殊に中里地区においては汚染の程度が甚しかつたことがあると認めることができる。

なお第一回及び第五回各現場検証の際、原告金井和夫らの居宅付近に、民間の焼却炉のあることが認められたが、同原告らの洗濯物等の汚染が右焼却炉の排煙によることを認めるべき証拠はなく、右焼却炉の存在をもつてたやすく右認定を左右するには足りない。

右各地域以外の原告らの居住地域においては、航空機が低空で飛行することも少ないため、排気ガスは拡散され、これによる汚染は自動車等の排気ガスによる一般の大気汚染の程度をこえることはないと思われる。

四  その他の環境破壊

(一)  学校教育への影響

<証拠>によれば、次のとおり認めることができる。

昭和三九頃の調査において、拝二小の教職員らは航空機騒音による教育上の支障として、爆音によつて授業が中断され、リズムが乱されるため、児童の授業に対する集中力が散つてしまい、爆音が去つた後授業を再開するに当たつて中断前の状態に戻すのに苦労するだけでなく、折角油に乗つたリズムを取戻すことが不可能になる、このような状態が常時繰返される結果、教師の疲労感が高まり、児童は注意力散漫、物ごとにあき易い性格となり、深く考え抜く力をつけ難く、学習意欲の低下を招く、特に論理的、系統的思考を必要とし、或いは情操教育を目的とする科目においてその弊害が著しいことを指摘している。

同様のことは、昭島市の航空機騒音による教科別学習阻害度についての調査結果にもあらわれており、これによると、小学校では算数・国語に対する阻害度がもつとも高く、社会・理科・音楽がこれに次ぎ、中学校では数学・英語がもつとも高く、次いで理科・社会・国語・音楽の順になつている。また昭和二九年当時の瑞穂中学の爆音被害補償申請書にも同趣旨のことが記載されている。

以上の事実と前記の心理的・情緒的影響、会話・ラジオ・テレビ・レコードの視聴に対する妨害、思考・読書・家庭学習等に及ぼす影響などを総合してみれば、航空機騒音にさらされた原告らの居住地域の教育環境の破壊は著しいものがあるといわざるを得ない。

もつとも、後記のとおり、横田飛行場周辺における被告の周辺対策のうち、学校防音工事に対する助成はかなり早い時期から積極的に行われ、拝二小についてみると、昭和三二年既存の木造校舎に対する防音工事が施行され、昭和三七年から同三九年までの間に鉄筋コンクリート造の防音校舎に改築され、昭和四四年除湿温度保持設備の設置工事が行われ、昭和四五年九月一七日同校において航空機騒音の調査をしたところ、屋上・校庭において一〇五ないし一一〇ホンの騒音が、教室内では窓を開放した状態で八五ないし九五ホン、窓を閉めた状態で五七ないし六五ホンに低下し、窓を閉めた教室内における授業に関する限り、騒音による影響は大幅に改善されており、その他公共施設の整備、住宅防音工事の施工等も、教育環境の改善に役立つているものと思われる。

しかし、年間常時窓を密閉した教室内で授業が行われなければならないということは、それに伴う電気料金の負担等の経済的損失は別としても、換気が必ずしも十分に行われず、教室内に重苦しい雰囲気をもたらし、殊に夏季の冷房にはそれなりの弊害もあつて、育ち盛りの児童に好ましくない影響もあるため、ときには窓を開放して採業を行わざるを得ないこともあり、まして校庭などの屋外または防音工事の施工されていない体育館などでの授業においては相変らず航空機騒音の暴露下に置かれているのみならず、防音工事によつても航空機の墜落等に対する恐怖からは解放されていないわけであつて、進入コース直下地域、特に横田飛行場に近い地域においては、学校教育に対する阻害が完全になくなつているとはいえないであろう。

(二)  集団移転

<証拠>を総合すれば、次のとおり認めることができる。

終戦当時の堀向地区は、戦時中に建てられた昭和飛行機工業株式会社の社宅があるほか、のどかな農村地帯であつたところ、その後都営住宅が続々と建築され、人口が急増し、同地区を縦貫する都道二二〇号線に沿つて商店街が形成され、昭和三〇年代にはにぎやかな市街地の様相を呈するに至つた。しかるに、朝鮮戦争以降横田飛行場を中心とする航空機騒音が激化の一途をたどり、墜落等の危険も強まり、殊に昭和三九年地元住民及び自治体の反対を押し切つてF一〇五部隊が移駐し、その強大な騒音にたまりかねて、堀向地区のうち進入コース直下地域に当たり、かつ横田飛行場に極めて接近している同地区北部(玉川上水以北)の居住者の間に集団移転の空気が高まり、昭和三九年七月以降同地区の代表者らが防衛施設庁及び昭島市に移転補償の陳情を行ない、後記認定のとおり昭和四七年までに右地区に居住し移転の対象となつた約九〇〇世帯のうち約五五〇世帯が移転を完了し、これに伴い前記商店街は消滅し、同地区には医療機関・公衆浴場がなくなり、定期バスの運航回数も大幅に減少した。このため同地区に残留した者はもとより、その周辺の居住者達はそれまで生活のよりどころとしていた商店・医療機関・公衆浴場を失い、交通の便も悪化するなど、日常生活の多くの面で不便を強いられるようになつた。のみならず、被告が買収した一二万平方メートル余の移転跡地の管理が十分に行き届かなかつたため、夏季には雑草が生い繁つて蠅や蚊の温床となり、冬季には枯草から火災が発生し、その他防犯上の問題も出るなど、同地域の生活環境は著しく悪化した。

その後航空機騒音等の減少傾向と相まつて集団移転は行われなくなり、却つて移転跡地の周辺においては転入者が増加して人口は旧をしのぐようになり、昭和五三年三月には特定防衛施設周辺整備調整交付金により堀向地区に昭島診療所が開設され、また被告は移転跡地の管理体制を整え、緑化対策に力を注いできている。このように集団移転によつて悪化した堀向地区及びその周辺地域の生活環境は次第に改善されているが、右地域に居住している原告らは、その陳述書等において、集団移転によつて生じた生活上の不便、殊に生活必需品の購入や交通に関する不備は現在でも解消されていないと訴えている。

以上認定した堀向地区北部における集団移転の事実は、朝鮮戦争以降ベトナム戦争の終了した昭和四六年頃までの間(前記第一期及び第二期)の同地区及びその周辺地域における航空機騒音等の激しさを表徴するものであるが、それと同時に右地域に居住する原告らが右集図移転によつて蒙つた生活上の不便は、航空機騒音等の間接的被害として右原告らの苦痛を評価するうえで斟酌されるべきものであると考える。

(三)  その他

1 原告らは、以上のほか本件の被害として、(イ)横田飛行場周辺地域の自治体において固定資産税等の税収入の減少、基地対策関係費等の支出により財政が圧迫され、都市発達が阻害されていること、(ロ)五日市街道の分断・迂回及び国道一六号線の変形等による交通渋帯、(ハ)航空機燃料・弾薬輸送に伴う事故の危険、(ニ)昭和三九年八月二九日及び同五二年七月七日の豪雨の際の同飛行場の排水施設の瑕疵から生じた浸水による被害、(ホ)同飛行場内から漏洩した航空機燃料による周辺地域の井戸水の汚染、(ヘ)所有家屋の賃貸料の減収を挙げている。

そこで原告らの主張する右被害の有無及びこれが原告らの請求原因事実たる航空機騒音等による生活環境の破壊と対比して如何に評価されるべきかについて検討する。

2 右(イ)ないし(ハ)については、被告の一部自白と<証拠>を総合すれば、(イ)横田飛行場周辺の自治体(立川市・福生市・昭島市・瑞穂町・羽村町)において同飛行場に関連して固定資産税等の税収入の減少、基地対策関係費等の支出により財政の負担を招いていること(後記第五、四、(一)、8参照)、(ロ)同飛行場の拡張のため五日市街道が分断・迂回し、国道一六号線が「く」の字形に変形することを余儀なくされ、その後右道路において交通量が増大し、交通渋滞を招いているが、同飛行場の存在のため道路の拡幅に難行し、交通渋滞の解決に支障をきたしていること、(ハ)同飛行場に対する航空機燃料及び弾薬の輸送は主として国鉄立川駅から原告ら居住地域の一部を斜断し、青梅線拝島駅を経由して行われているが、昭和三九年一月立川駅構内で、昭和四二年八月新宿駅構内でそれぞれ右燃料輸送に使用しているタンク車につき火災事故が発生し、昭和四六年一月青梅線中神駅でタンク車一両が脱線転覆する事故が起きたこと、以上の事実を認めることができる。

ところで右(イ)の自治体の財政負担は主として横田飛行場の存在自体から生じているものであるが、航空機騒音等の影響をまつたく否定することはできないであろう。しかしかかる自治体の財政に対する影響はそれ自体としては原告らの慰藉料の請求原因となり得るものではなく、これによる都市発達の阻害・環境破壊を通じて斟酌されるべきものである。しかしこの点に関しては、これまで原告らの被害として認定してきた環境破壊の事実以外に具体的な事実の主張、立証がない。(ロ)の交通渋滞及び(ハ)の軍事輸送の危険については、いずれも航空機騒音等とは関係がなく、もつぱら横田飛行場の存在自体から生じている不利益であり、その不利益の程度も生活環境の破壊による慰藉料の請求理由となる程著しいものと認めることはできない。

3 次に(ニ)及び(ホ)について、<証拠>を総合すれば、(ニ)昭和三九年八月二九日の豪雨の際、基地南地区及び堀向地区において、同五二年七月七日の豪雨の際には中里地区において、それぞれ横田飛行場の排水施設の瑕疵により浸水事故が生じたこと、(ホ)昭和三二年頃から同五二年頃にかけて、数回にわたり中里地区を含む立川市西砂川地域を中心とし、基地南地区及び堀向地区の一部においてジェット燃料と覚しき油による井戸水の汚染、酸欠ガス発生の事故が生じ、調査の結果、日時及び原因の詳細は明らかではないが、昭和三二年以前に横田飛行場から多量のジェット燃料が漏洩し、これが東南方面に扇状に浸透し、残留していたことによるものと推測されたこと、以上の事実を認めることができる。

しかし右浸水及び井戸水汚染等の事実も、航空機騒音等とは関係のない別箇の原因によつて生じたものであり、各個人の個別的被害としてその損害の賠償を請求すべきものである。なお前掲各証拠によれば、右浸水及び井戸水汚染等の事故の一部については、当時被害者に対して金銭補償がなされていることを認めることができる。

4 (ヘ)については、航空機騒音等が周辺地域に所在する家屋を第三者に賃貸しようとする者にとつて、賃借人を求めるのに困難を生じ或いは賃料の額に影響を及ぼす可能性があることは肯認できる。しかし、右損失に対しては、その家屋を賃貸しまたは賃貸しようとしている所有者が個別的被害としてその賠償を請求するのは格別、その地域に居住している者の一般的な慰藉料の請求原因として斟酌すべき事由と認めることはできない。

5 以上の次第で、原告らが主張する前記(イ)ないし(ヘ)の各被害は、これを本件航空機騒音等に対する慰藉料の請求原因事実として考慮することはできない。

五まとめ

以上認定したところによれば、横田飛行場における米軍機の飛行活動、エンジンテスト等によつて生ずる航空機騒音等は、時期的及び地域的にみてその程度を異にするとはいえ、その周辺地域に居住する原告ら住民の心身の健康に種々の不利益を及ぼし、日常生活を各方面にわたつて妨害し、右航空機騒音等のもとに置かれている地域の生活環境を全般的に悪化させているということができる。

もつとも、同一地域に居住している住民の間でも、その年令・性格・素質・職業・居住家屋の構造・財産の内容等のいかんによつて、航空機騒音等により蒙つている身体的・心理的・経済的損害の内容は一律ではないであろう。各人は個別に右損害の内容及びこれと航空機騒音等との因果関係を明らかにしてその賠償請求をなし得ることはいうまでもない。

しかし、右個別の被害とは別に、地域住民にとつて平穏にして健康的な生活環境を保持するということ自体、法的に保護されるべき共通の利益ということができる。従つて健康被害、日常生活の妨害をもたらし得る強大な航空機騒音等によつて生活環境の悪化を招来していることが認められる以上、このような航空機騒音等のもとに置かれている地域住民としては、生活環境の悪化自体を被害として把握し、これにより蒙る精神的苦痛に対する慰藉料の請求をなし得るものと解するのが相当である。

原告らが主張する人格権・環境権の内容は実定法上必ずしも明確とはいえないが、右の意味での慰藉料の請求の当否を判断するうえで、人格権・環境権の内容を明らかにし、生活環境の悪化をもつて人格権に対する侵害であるか、或いは環境権に対する侵害であるかを確定する必要はない。また個別的被害とは別に、生活環境の悪化をもつて独立の被害として把握する以上、同一環境下に置かれている地域住民の被害は共通であるということができ、その限りにおいて(時期的・地域的差異及び被告が講じた救済対策を考慮すべきことは別として)原告らの一律の額による賠償請求は理由があるものというべく、個別的被害を明らかにしない一律請求をもつて失当とする被告の主張は、にわかに採用することができない。

第五被告の対策

一はじめに

航空機騒音・排気ガス・振動等による被害は、不特定・多数の住民に及ぶ点において、まさに公害と呼ばれるにふさわしいものであるが、これに対する被告の対策が、主として航空機騒音に向けられていることは、その影響の及ぶ範囲が広くかつ大きいことに照らして当然といえよう。

ところで騒音対策の内容を大別すると、(1)騒音の発生原因を規制することによつて被害を未然に防止軽減する方策として、機体の改良、離着陸回数の時間帯別制限のほか、飛行音に関しては、飛行経路・飛行方法の制限などがあり、地上音に関しては、飛行経路・飛行方法の制限などがあり、地上音に関しては、消音器の設置、作業場所・作業時間の制限、防音堤・防音壁の設置等が考えられる(以下音源対策、運航対策という。)。また、(2)飛行場周辺に好ましい騒音環境基準を設定し、その基準の維持達成をはかることは、右騒音規制を間接的に促進せしめる有力な方策ということができる。さらに(3)学校・病院その他の公共施設及び個人住宅に対する防音工事の助成、移転の促進、緑地帯・公園等の設置、道路・上下水道その他公共施設の整備充実等により、生活環境の改善をはかることも、被害救済のうえで欠かすことのできない方策である(以下周辺対策という。)。

以下横田飛行場周辺地域における被告の騒音対策について、まず一般的な根拠法令、環境基準等を概観し、次いで被告が具体的に実施してきた各種の対策(音源対策・運航対策・周辺対策)の内容を、公共用飛行場における騒音対策の実施状況も参考としながら検討する。

二法令、環境基準等の概観

<証拠>によれば、次のとおり認めることができる。

1  戦後の騒音規制は、まず工場騒音・街頭騒音等騒音源の種類ごとに個別的法令(主として条例)によつてなされていたところ、航空機騒音に関しては、その登場が新しいのみでなく、運航の国際性・公共性、規制の技術的困難性のため法令の整備が遅れていたが、昭和三八年頃から公共用飛行場において行政措置による運航の規制がなされるようになり、昭和四二年八月一日「公共用飛行場周辺における航空機騒音による障害の防止等に関する法律」(以下航空機騒音障害防止法という。)が施行され、これにより運輸大臣は、公共用飛行場において航空機の運航に関し、飛行経路及び時間その他航行の方法を告示で指定し、規制する権限が与えられた。また昭和五〇年七月七日航空法の一部改正により、ターボジェット発動機を装備する航空機で耐空証明を受けているものにおいては、運輸大臣がその騒音について省令で定める基準に適合するか否かを検査し、これに適合するとの証明(騒音基準適合証明)を与えたものでなければ、航行の用に供してはならないとされ、発生源に対する規制の法的根拠が与えられた。しかし米軍に提供された軍事基地である横田飛行場に関しては、航空機騒音障害防止法による運輸大臣の規制権限が及ばないことは明らかであり、また米軍機に関しては、騒音基準適合証明制度の適用も除外されている。さらに昭和四三年一二月一日施行された騒音規制法も航空機騒音については規制の対象から外され、他に米軍機から生ずる航空機騒音を直接規制する法的根拠はなく、結局横田飛行場周辺における航空機騒音を規制するには、地位協定第二五条に定める日米合同委員会の協議にまつほかはない状況である(後記昭和三九年四月一七日日米合同委員会において承認を得た合意事項参照)。

2  昭和四二年八月三日施行された公害対策基本法は、各種の公害が国民の生活環境を脅かしている事態に対処するため、公害対策の総合的推進をはかることを目的として制定されたもので、公害発生源に対する直接の規制措置を定めたものではないが、規制措置の基本的目標・指針とするため大気汚染、水質汚濁、土壤の汚染及び騒音に関して、健康を保持し生活環境を保全するうえで維持することが望ましい環境基準を定めることを政府に対して要求している(同法第九条)。ここにいう環境基準とは、許容限度ないし受忍限度を示すものではなく、それより高度の、生活環境保全のために維持されることが望ましい基準を示すもので、具体的な公害対策を推進するに当たつての行政上の基本的な目標、指針となるものである。

これを受けて被告政府は、昭和四六年五月二五日閣議決定により「騒音に係る環境基準」を、次いで昭和四八年一二月二七日環境庁告示をもつて「航空機騒音に係る環境基準」を設定した。

「騒音に係る環境基準」は、夜間における睡眠障害、昼間における会話妨害、作業能率の低下、不快感をきたさないことを基本目標とし、地域類型別に昼間・朝夕・夜間の時間帯区分に応じた基準値(屋外における中央値)を定めたもので、特に静穏を要する地域では昼間四五ホン以下、朝夕四〇ホン以下、夜間三五ホン以下、主として住居の用に供される地域では右時間帯区分に応じて五〇ホン以下、四五ホン以下、四〇ホン以下、相当数の住居とあわせて商業・工業等の用に供される地域では六〇ホン以下、五五ホン以下、五〇ホン以下とされ、右のうち道路に面する地域(ただし、特に静穏を要する地域及び主として住居の用に供される地域のうちで幅員5.5メートル以下の道路に面する地域を除く。)について、五ホンないし一〇ホンの範囲で緩和され、右道路に面する地域以外の地域では環境基準設定後直ちに、右道路に面する地域では、交通量の多い幹線道路に面し、基準の達成が著しく困難な地域を除き原則として設定後五年以内に目標を達成すべきものとされているが、右環境基準は航空機騒音、鉄道騒音及び建設作業騒音には適用しないものとされた。

「航空機騒音に係る環境基準」(以下単に環境基準という。)は、飛行場周辺地域のうち、専ら住居の用に供される地域(類型Ⅰ)においてはWECPNL七〇以下、類型Ⅰ以外の地域であつて通常の生活を保全する必要がある地域(類型Ⅱ)においてはWECPNL七五以下を基準値と定め、飛行場の区分(空港整備法施行令)に応じて右基準値の達成期間を定めているが、既設飛行場のうち福岡空港を除く第二種空港B(ターボジェット発動機を有する航空機が定期航空運送事業として離着陸する空港)及び新東京国際空港の周辺地域においては一〇年以内、新東京国際空港を除く第一種空港(東京国際空港及び大阪国際空港)及び福岡空港の周辺地域においては一〇年をこえる期間内に可及的速やかにそれぞれ達成されるべきものとされ、かつ環境基準の達成期間が五年をこえる地域においては、中間改善目標として五年以内にWECPNLの値を八五未満とし、八五以上となる地域においては屋内で六五以下とすること、達成期間が一〇年をこえる地域においては、右五年以内に達成されるべき中間改善目標とともに、一〇年以内に七五未満とし、七五以上となる地域においては屋内で六〇以下とすることと定められた。

環境基準が以上の基準値を定めた理由は、聴力の損失など人の健康に係る障害を防止することはもとより、日常生活において睡眠妨害、会話妨害、不快感などをきたさないことを基本目標とするとともに、航空機の運行の公共性、国際性、航空機騒音を低減することの技術的困難性を考慮し、道路騒音等の一般騒音の中央値と比較した場合に、各種の生活妨害の訴え率からみてほぼ六〇ホンに相当し、一日の総騒音量でみると、連続騒音の七〇PNdBと等価であり、一般騒音のPNdBとdB(A)(ホン)との差及びパワー平均と中央値との差を考慮すると、ほぼ右中央値の五五ホンに相当するWECPNL七〇の値が採られたものである(なおWECPNL七〇は、機数二〇〇機の場合NNI四〇に、二五機の場合NNI三五にほぼ相当する。)。また一般騒音に係る環境基準において地域類型別に基準値が定められていることから、航空機騒音に係る環境基準についても、類型Ⅰの地域における基準値とは別に、類型Ⅱの地域における基準値として、訴え率からみて一般騒音についての上限値である中央値六五ホンに相当するWECPNL七五の値が採られたものである。

ところで右環境基準は、公共用飛行場についての基準であるが、同時に自衛隊及び米軍の飛行場についても離着陸回数、機種及び人家の密集度等を勘案して、類似の条件下にある公共用飛行場に準じて維持・達成されるように努めるべきものとされている。そこで東京都知事は、昭和五三年三月三一日公害対策基本法第九条の委任に基づき、昭和五一年及び同五二年の実態調査によるWECPNL七〇騒音コンターを基準として、横田飛行場周辺における地域類型Ⅰ及びⅡに係る地域を指定し、これを告示した。これによると、環境基準適用地域は同飛行場の滑走路の中心線から東側二〇〇〇メートル、西側三〇〇〇メートルの距離をもつ滑走路と平行な二本の直線、東京都と埼玉県との境界線及び八王子市と町田市との境界線によつて囲まれた地域から米軍に提供されている施設及び区域を除く地域とされ、右適用地域のうち都市計画法に基づく第一種住居専用地域、第二種住居専用地域、住居地域及び無指定地域を類型Ⅰに、近隣商業地域、商業地域、準工業地域、工業地域を類型Ⅱにあてはめ(なお環境庁大気保全局長の昭和四九年七月二日付通達によると、住居地域は類型Ⅱにあてはめるべきものと指示されているが、都知事は、航空機騒音について鉄道騒音の場合の類型指定と異別に扱う合理的理由がないとして、同地域を類型Ⅰにあてはめたのである。)、かつ防衛庁官及び防衛施設庁長官宛に、環境基準の達成期間につき同飛行場が第二種空港Bの区分に相当することを明確にするよう努め、右期間中における年次別改善計画を明らかにすることを要請したが、被告(防衛庁)は、昭和四八年度の測定資料に基づき、同飛行場における平均的離着陸回数及び人家の密集度等を勘案して、環境基準の達成期間につき同飛行場は新東京国際空港を除く第一種空港及び福岡空港の区分に相当するものと定めた。

しかし横田飛行場周辺において前記中間改善目標の達成は後記のとおり大幅に遅れている。

3  戦後わが国に駐留する米軍等(国連軍を含む)の行為によつて生じた損失に対する救済のため、昭和二八年八月二五日特損法(日本国に駐留するアメリカ合衆国軍隊等の行為による特別損失の補償に関する法律)が施行されたが、同法は特定の事業について生じた損失の補償を目的とするもので、生活環境全般の維持改善を目的とするものではなかつたから、航空機騒音により生じた生活環境の悪化に対する救済としては、ほとんど役に立たなかつた。

しかるに昭和三〇年代に至り、自衛隊及び米軍が使用する飛行場周辺において航空機騒音による被害が甚しくなつてきたため、被告は行政措置により学校・病院等の防音工事の助成、住宅の移転補償、土地の買入れなどを行わざるを得なくなり、そのための法制の整備が必要となつた。

右要請に応えるため、昭和四一年七月二六日周辺整備法(防衛施設周辺の整備等に関する法律)が施行された。同法において、(イ)地方公共団体その他の者が農業用等施設、道路河川、防災施設、水道または下水道、その他の公共施設について、航空機の離着陸・低空飛行等により生ずる障害を防止・軽減するために行う工事費用並びに学校・病院等について行う防音工事等費用の全部または一部の補助、(ロ)周辺地域の住民の生活または事業活動に生ずる障害緩和のため市町村が行う生活環境施設及び事業経営の安定に寄与する施設の整備費用の一部の補助、(ハ)防衛施設庁長官が飛行場周辺において指定する区域(当該飛行場の進入表面及び転移表面のそれぞれの投影面と一致する区域内の区域、以下指定区域という。)内にある建物・竹木等を右区域外に移転しまたは除却することにより生ずる通常の損失の補償(移転補償)及び指定区域内の土地の買入れ、などについて制度的保障が与えられた。

同法に基づき防衛施設庁長官は、昭和四二年三月三一日横田飛行場に関する指定区域を、進入表面及び転移表面の投影面と一致する区域のうち、着陸帯の短辺の側における着陸帯の中心線の延長一〇〇〇メートルの点において中心線と直角をなす二つの平行線(中心線の左右それぞれ五四〇メートル)によつて挾まれた区域(被告別冊第6図)と定め、これを告示した。これによつて原告らの居住地のうち中里地区・基地南地区のほぼ東側部分・堀向地区のほぼ玉川上水北側部分が指定区域に入つた。

その後公共用飛行場周辺においてもジェット機の発着が増加し、航空機騒音による被害の救済の必要が高まつたため、昭和四九年航空機騒音障害防止法が改正され、公共用飛行場周辺における周辺対策の充実がはかられたのに対応して、同年六月二七日周辺整備法を廃止し、新たに生活環境整備法(防衛施設周辺の生活環境の整備等に関する法律)が施行された。同法は周辺整備法で定められた周辺対策を承継するとともに、これを拡充強化したものであり、周辺整備法による指定区域にかえて航空機騒音の程度により第一種区域、第二種区域及び第三種区域を指定することとなり、第一種区域においては住宅防音の助成、第二種区域においては建物の移転または除却に対する補償及び土地の買入れ、第三種区域においては緑地帯その他の緩衝地帯の整備を行うことが定められ、これとともに新たに地元市町村に対する特定防衛施設周辺整備調整交付金の制度がもうけられ、周辺住民の生活の安定及び福祉の向上に寄与することがはかられた。

生活環境整備法の規定を受け、同法施行規則においてWECPNL八五以上の地域を第一種区域、同九〇以上の地域を第二種区域、同九五以上の地域を第三種区域として指定することと定められ、昭和四九年一二月一四日東京防衛施設局長から関係自治体に第一種ないし第三種区域の指定案が示され、以後右指定案に従い行政措置により同法の定める周辺対策に準じた対策が実施された。右指定案は、日本音響材料協会が昭和四八年の実態調査に基づいて作成した前記の騒音コンターを基礎としたもので、これによると原告らの居住地のうち中里地区は第三種及び第二種区域に、基地南地区は第一種区域及び指定外に、基地西地区は指定外に、堀向地区及び青梅南側地区は第二種区域、第一種区域及び指定外に、それぞれ準ずるものとして区分された。ただし堀向地区のうち指定外に準ずるものとされた地域は、おおむね周辺整備法による指定区域にあたるため、生活環境整備法の第二種区域に準ずるものとして扱われた。

その後防衛施設庁長官は、日本音響材料協会が昭和五〇年ないし同五三年の間の実態調査に基づいて作成した前記の騒音コンターを基礎として、昭和五四年八月三一日被告別冊第7図のとおり横田飛行場周辺における第一種及び第二種区域を指定し、告示した。これによると中里地区は第二種及び第一種区域に、基地西地区は指定外に、基地南地区及び堀向地区は第二種区域、第一種区域及び指定外に、青梅線南側地区は第一種区域及び指定外にそれぞれ区分され、前記の指定案に比較すると、原告ら居住地に関しては、おおむね第一種及び第二種区域の範囲が狭まり、第三種区域が消滅した点に相違がみられる。その後同年九月一四日施行規則が改正されて第一種区域の範囲がWECPNL八〇以上に拡大され、これに基づき昭和五五年四月一四日東京防衛施設局長より東京都知事宛に第一種区域の追加指定の案が示された。

なお被告は、周辺整備法及び生活環境整備法のもとで、同法の定める周辺対策以外に行政措置により、NHKテレビ受信料の減免措置に対する補助、騒音用電話機設置事業に対する補助、学校等防音施設関連維持費に対する補助などを行つている。

三音源対策、運航対策

(一)  <証拠>を総合すれば、次のとおり認めることができる。

1 朝鮮戦争の頃から横田飛行場においてジェット機が活動するようになり、周辺地域の自治体では、同飛行場における航空機騒音、特にエンジンテスト音の防止・軽減について米軍及び被告に対し繰返し陳情を行つた。そこで米軍は、エンジンテスト音の軽減をはかるため、昭和三六年頃同飛行場内にエンジンテスト用の防音壁を設置した。右防音壁は、高さ四メートルのコンクリートの斜壁をつくり、その頂部に音を分散させる羽根形の金属を取りつけ、他の面の壁は野戦用滑走路の材料と土で四、五メートルの高さに盛り上げたものであるが、減音の効果に乏しく、不成功に終つた。次いで昭和三七年二月米本国からF一〇二戦闘機用の消音器を取寄せ、これを同飛行場内に設置したが、右消音器も減音効果が十分でないのみでなく、これに使用する多量の水が霧状となつて噴出し、付近の国道に注がれ、冬季にこれが凍結して自動車事故の原因ともなつたため、使用中止のやむなきに至つた。

2 その後各地において航空機騒音に対する住民の不満が高まつてきたので、昭和三八年一一月日米合同委員会の下に、在日米軍の飛行場全般にわたる騒音問題を検討するための常設補助機関として航空機騒音対策分科委員会が設置されたところ、同分科委員会は検討の結果、昭和三九年四月一六日横田飛行場に関する騒音軽減のための措置について合意に達し、同日日米合同委員会に対しその報告とあわせて右合意に係る措置を承認するよう勧告し、日米合同委員会は同月一七日これを承認した。右承認に係る措置の概要は次のとおりである。

(1) 騒音規制措置

a 横田飛行場に効果的な消音装置をできる限り速やかに設置し、ジェットエンジンのテストセル及びトリムパッドの作業実施に際し、これを使用する。

b 効果的な消音装置が設置されるまでの間、すべてのジェットエンジンについての地上におけるテストセル及びトリムパッドの作業は、緊急の場合または運用上必要とされる場合を除き、次の時間には実施しない。

イ テストセルの作業

月曜日から金曜日までは、J―五七型(または、これより高出力の)エンジンについては一七時から七時まで、他のすべてのジェットエンジンについては一八時から七時まで。

土曜日及び日曜日には、実施しない。

ロ トリムパッドの作業

すべてのエンジンについて一八時から七時まで。

c 列線における日没後のジェット機の調節(ターンアップ)は、出力の六〇パーセントまでに制限する。

d 夜間訓練飛行は、必要最小限に制限し、できる限り早い時刻に終了するよう努める。

e アフターバーナーが離陸のために使用される場合には、できる限り速やかに上昇を行い、任務の達成のためまたは運用上別段の必要がある場合を除き、安全高度及び安全速度が得られ次第、アフターバーナーの使用を停止する。

fイ 離陸、着陸または計器進入の間を除いて、横田飛行場の隣接地域においては、ジェット機は最低平均海面上二〇〇〇フィートを維持し、ターボプロップ及び在来型航空機は最低平均海面上一五〇〇フィートを維持する。

ロ 横田飛行場周辺においては、すべての航空機の速度はマッハ一未満に制限する。

(2) 既に実施中であり、今後も承認されるべき騒音対策

a 人口稠密地域の上空の飛行をできる限り避けるための、ジェット機、在来型航空機の場周経路(進入発進路を含む。)の変更及びヘリコプターの進入発進路の設定等に対する検討を引きつづき行う。

b 管制官は、所定の場周経路及び騒音規制措置が確実に守られるよう、当該区域にある航空機を絶えず監視し、指示を与える。

c 操縦士及び乗組員に対し、横田における騒音問題について十分教育し、飛行前に各飛行に当たつて守らなければならない騒音対策を指示する。

d 日曜日の訓練飛行は、最小限におさえる。

e 低空での高音を伴う飛行及び曲技飛行を禁止する。

f 横田飛行場司令官及びその幕僚は、騒音問題、騒音対策について常に周到な注意を払い、理解と協力を増進するため、現地の地方公共団体その他の当局と緊密な連絡を維持する。

3 ところで日米合同委員会において前記の承認がなされた昭和三九年当時、横田飛行場にF一〇五戦闘爆撃機が配備され、同機の発する強大な騒音に対し住民の不満が高まつていたが、同年八月頃同飛行場にF一〇五戦闘機用を含む五基の消音器が設備され、右F一〇五用消音器を使用すると、エンジンテスト音が一〇メートル離れた地点で七〇ホンに低下し、一応の成功をおさめ、住民の間に、日米合同委員会の規制措置についての承認と相まつて騒音被害の軽減につき明るい期待を抱かせた。

しかるにやがて米軍のベトナム戦争介入の時期を迎え、横田飛行場周辺の航空機騒音の状況は最悪となり、夜間の騒音発生回数は増加し、長時間にわたるエンジンテストが繰返され、その騒音レベルは堀向地区において一〇〇ホンを超える場合が少なくなく、また低空飛行禁止の規制にもかかわらず、昭和三九年一二月堀向地区においてF一〇五の超低空飛行に伴う衝撃波事故が発生するなど、日米合同委員会の承認に係る規制措置はほとんど有名無実の状態となつた。

かくして横田飛行場周辺の自治体は、その後機会あるごとに政府関係機関や横田基地司令官に対し、日米合同委員会で承認された規制措置を厳守するようにとの申入れを繰返してきたところ、同基地司令官においても、昭和四六年一〇月昭島市の要請に対し、日米合同委員会で承認された規制措置を尊重し、夜間飛行は完全にはなくせないが、要望にそうよう努力する旨の回答を寄せ、また同年一二月福生市議会横田基地対策特別委員会の要請に対し、同基地広報部長から、米国との時差の関係で夜間に基地に到着することになるが、カリフォルニアの第二二空軍に対しなるべく夜間に到着しないよう申入れている、エンジンテストは原則として午後一〇時から午前六時まで規制しているが、緊急の場合は整備部長が許可を出して行つている旨の回答が伝えられ、昭和四七年二月頃F四戦闘爆撃機のアフターバーナーの使用より生ずる騒音を減少させるため、横田基地飛行部門担当部長は、同機種の配備されている嘉手納(沖縄)及び群山(韓国)の米軍基地に対し、その所属するF四機が横田飛行場から離陸する際、アフターバーナーの使用を極力規制するよう申入れ、また昭和五〇年九月昭島市の住民団体が米軍の第三四五戦術空輸大隊の移駐に伴う騒音の増大に関して寄せていた質問状に対し、横田基地広報部は、訓練は離発着だけで、パラシュートによる物資の投下は行わない、空輸は一日二回、訓練は同六回程度で、一回につき数回の離発着を行う、飛行コースは人口の密集地を避け、高度は一五〇〇フィートとする、飛行時間は午前八時から午後一〇時までとし、夜間飛行は最小限にとどめる、との旨の回答をなした。

昭和四六年以降横田飛行場からF一〇五、F四などの戦闘爆撃機が姿を消し、同飛行場の性格が戦闘基地から空輸中継基地にかわり、飛行回数の減少、騒音レベルの低下を見るに至り、エンジンテストも調整作業は別として、極く稀にトリムパッド作業として行われる程度になり、夜間帯(午後五時以降)における訓練飛行も、昭和五一年から同五三年までの間の資料によると、年間日数中の六、七〇パーセントは行われず、しかも土曜日、日曜日には全然行われないようになつた。その限りにおいて米軍は日米合同委員会の承認した規制措置を尊重しているということができる。

しかし大型輸送機の夜間飛行や早朝の暖機運転に伴う地上音については、日米合同委員会で承認された規制措置が及ばず、さらに関東計画による基地の強化に伴つて昭和五〇年九月以降飛行回数が若干増加する傾向に転じ、現在横田飛行場周辺地域の住民は、米軍機の騒音による被害が同地域にしわ寄せされ、一段と強まるのではないかとの不安の念を抱いている。

4 防音堤、防音壁、防音林

飛行場の周囲に防音堤・防音壁を設置し、防音林を植栽することは、飛行騒音に対する効果は期待できないとしても、地上音に対しては、地形のいかんにもよるが有効な対策となることが考えられる。ところで自衛隊小松基地には防音堤及び防音壁が、米軍嘉手納基地には防音壁がそれぞれ設置されているが、横田飛行場にはかつてエンジンテスト用に極めて小規模の防音壁がもうけられたことを除いて、防音堤・防音壁が設置されたことはない(横田飛行場において防音堤・防音壁が設置されていないことは、当事者間に争いのない事実である。)。防音林対策としては、被告が買収した土地につき、後記の周辺対策の一環としてなしている植林が一面において防音林の機能をもち得るものであつて、昭和四六年以降実績を挙げつつあるといえるが、いまだ植栽後経過年数も少なく、十分な防音効果をあげているとはいい難い。

ところで被告(防衛施設庁)は、横田飛行場が北に高く、南に低い地形となつているため、同飛行場の南または南東に居住している原告らのために有効な防音堤・防音壁を設置することは技術的に困難であるとの見解をもつている。確かに地形によつては、効果のある防音堤・防音壁を設置することに技術的な困難が伴い或いは膨大な費用を要することになる場合があるであろう。その設置の是非については、広く他の有効な騒音対策との比較検討のうえ総合的な見地から判断されるべきことは当然である。

しかし横田飛行場に防音堤・防音壁の設置がなく、また緑地帯の整備も完成していないことは、原告らのうち横田飛行場に極く近接した地域に居住している者にとつて、地上音の被害を強める一因となつていることは否定できない。特に中里地区に居住している原告らの居宅と横田飛行場との間にはなんらの遮蔽物もなく、しかもエンジンテストが右居宅の真正面で行われるため、その騒音がまともに右居宅を襲い、排気ガスも気象状況のいかんによつては右地区において憂慮すべき状況になることがあると推測され、被告としてもこれに対しなんらかの対策を考慮しなければならないと思われる。

(二)  <証拠>によれば、公共用飛行場における規制措置について、次のとおり認めることができる。

昭和三四年頃から民間航空にジェット機が登場し、航空機騒音が社会問題としてとりあげられるようになり、騒音の激しい東京国際空港において昭和三五年一二月地元代表、航空会社及び運輸省の三者により東京国際空港騒音対策委員会が設置され、実態調査及び騒音対策について検討された。これをふまえて空港当局は、昭和三七年一二月二一日閣議了解を得て、同三八年一〇月一日以降同空港において二三時以降六時までのジェット機の離発着を原則的に禁止する措置をとり、次いで離発着の経路をできるだけ海側にとり、住宅地域に及ぼす影響を少なくするよう指導することになつた。大阪国際空港についても、昭和四〇年一一月二四日閣議了解を得て、東京国際空港と同様深夜におけるジェット機離発着禁止の措置をとり、さらに同四四年一一月七日閣議了解により、B滑走路供用が開始される同四五年二月五日より時間帯ごとに航空機騒音の規制値を定めた(右規制値は、川西市立久代小学校屋上の騒音測定塔における測定値であつて、例えば二〇時から二二時三〇分までは一〇〇ホン、ただし着陸機については一〇七ホン、二二時三〇分から六時三〇分までは七五ホンとされている)。

ところで前記のとおり、昭和四二年航空機騒音障害防止法が施行され、運輸大臣に公共用飛行場における飛行経路及び時間その他航行方法についてこれを規制する権限が与えられたところ、東京国際空港及び大阪国際空港の周辺において航空機騒音による被害が深刻化してきたため、昭和四六年一二月二八日環境庁長官は運輸大臣宛に「環境保全上緊急を要する航空機騒音対策について」と題する勧告を発し、右勧告において、運輸大臣の告示により、夜間早朝における運航規制の強化、その他の時間帯における発着回数の抑制、航行方法の改善などの措置を講じ、その他一定地点における騒音ピークレベルの最高限度の設定、エンジンテスト等航空機の整備に伴う騒音の防止を図るための施設の整備、作業時間の制限、WECPNL八五以上の地域における障害防止の措置(防音工事の助成、移転の推進)、騒音監視測定体制の整備強化などの幅広い方策が示され、これを受けた運輸大臣は昭和四七年三月二九日運航対策として概略次の規制措置を講じた。

(イ) 発着時間・運航方法の規制

東京国際空港において、ジェット機の発着は緊急やむを得ない場合を除き、午後一一時から翌日午前六時まで禁止する。ジェット機による午後一〇時から同一一時までと午前六時から同七時まで、プロペラ機による午後一〇時から翌日午前七時までの発着につき、運航方法を制限する。ただし以上につき当分の間国際線のやむを得ない遅延による到着便は認める。

大阪国際空港において、航空機の発着は緊急やむを得ない場合を除き、午後一〇時から翌日午前七時まで禁止する。ただし郵便輸送機にあつては、輸送の代替手段を考慮して段階的に実施する。

(ロ) エンジンテストの規制

東京国際空港においては、原則としてジェット機につきテスト区域を限定し、プロペラ機につき一定の区域以外においては午後一〇時から翌日午前六時三〇分までの作業を禁止する。

大阪国際空港においては、原則として午前六時三〇分から午後一〇時までの間に遮蔽施設内で作業を行う。

ところで東京国際空港に関しては、昭和五一年三月二五日新しく騒音軽減運航方式(NOTAMNr〇五一)が定められ、従前とほぼ同じ内容の離着陸時間規制のほか優先滑走路規制(夜間の騒音軽減を図るため、夜間の離着陸について特定の滑走路の優先使用などを定める。)、騒音軽減運航方式(滑走路別に、離着陸についての使用制限、機種による滑走開始位置の指定、高度制限、飛行経路及び計器飛行進入等の規制等を定める。)等の措置により、昭和四七年の規制が一層強化されている。

(三)  これを要するに、横田飛行場における音源対策、運航対策としては、昭和三九年四月一七日日米合同委員会によつて承認された規制措置がこれまでのところ唯一の効果的な措置であつたといわざるを得ない。右措置は、当時のF一〇五戦闘爆撃機などによる激しい訓練飛行、エンジンテストの騒音のもとで、適切な内容をもつものであり、住民も被害の軽減について明るい希望を抱いたところであつた。その後同飛行場の性格が変わるとともに、住民は戦闘爆撃機の騒音から免れたが、そのかわりに大型輸送機の騒音、特に夜間の離発着及び早朝の地上音に悩まされるようになつたところ、このような情勢の変化に対処する新たな規制措置が講じられなかつた。

この間公共用飛行場においては、飛行経路・発着時間その他の航行方法或いはエンジンテストの実施方法などに関して、数次にわたつて規制が強化され、さらに地元住民・自治体及び被告(運輸省)の協力によつて騒音状況及び規制措置違反に対する監視体制が整備強化されつつあり、これと比較した場合横田飛行場における騒音規制措置は著しく遅れているといわざるを得ない。

もつとも横田飛行場が安保条約によつて米軍に提供された軍事基地である性格上、その戦術的・戦略的能力に支障をきたさせない配慮が必要であり、この点において公共用飛行場とは異る制約を受けることはやむを得ないところである。しかし横田飛行場の性格からくるこのような制約は、音源対策・運航対策のうえでのことであつて、被害救済の立場からは、被告の免責事由となるものではなく、むしろ柔軟な規制措置の講じ得る公共用飛行場に比して一層の配慮が必要というべきであろう。そこで以下被告が横田飛行場周辺において被害救済のために実施している周辺対策の内容について検討する。

四周辺対策

(一)  <証拠>を総合すれば、次のとおり認めることができる。

1 学校・病院等防音工事の助成

昭和二八年施行された特損法は、航空機騒音により学校・病院・診療所等が事業経営上の損失を蒙つたときは、被告がその損失を補償するものと定めているところ、右学校等の施設については、事業経営上の損失を補償するよりも、防音工事を施工することによつて騒音被害の軽減をはかることがより適切であるとの観点から、被告は昭和二九年頃「公共施設防音工事施行基準」を定め、これに基づいて地方公共団体が施工するこれらの施設の防音工事につき助成措置を講ずることとなつた。

横田飛行場周辺においては、昭和二九年同飛行場と立川飛行場を使用する航空機の複合的騒音下にあつた立川第四小学校及び立川第一中学校を始めとして順次実施され、その後右助成措置は周辺整備法、生活環境整備法によつて法的保障が与えられ、その間助成措置の対象となる施設の範囲も拡大して、保育所・精神薄弱児施設・教護院・精神薄弱者更生施設・保健所・救護施設・特別養護老人ホーム・助産所・母子健康センター等に及ぶようになり、工事内容も昭和三四年以降改築工事、昭和四三年以降除湿温度保持工事が加わり、次第に充実した。現在助成の対象となる防音工事の内容は、遮音工事・吸音工事及び換気除湿温度保持工事よりなり、騒音の程度によつて一級ないし五級工事に分けられ、一級工事においては三五ホン以上、二級工事においては三〇ホン以上の減音効果が見込まれ、換気量は、原則として一人一時間当たり四三立方メートルまたは一室一時間当たり七回のいずれか大なる方が維持されるように施工されることになつている。

学校防音工事のうち横田飛行場にもつとも近く、激しい航空機騒音にさらされている拝二小について工事施工の経過をみると、昭和三二年一〇月当時木造であつた同校校舎につき工事費六〇〇万円余、全額国庫負担で防音工事が施工され、これによつておよそ二〇ホン程度の減音効果が認められ、次いで昭和三七年七月から同三九年二月までの間に三期にわたつて鉄筋防音校舎に改築され、その結果三五ホン程度の減音効果が得られた。しかし同工事には換気設備は付帯していたが、除湿・温度保持設備は含まれていなかつたため、夏季には窓を開放せざるを得ない状態であつたところ、前記のとおり除湿温度保持工事が認められるようになつたので、昭和四四年九月右工事が施工され、現在に至つている。

被告が昭和二九年度以降同五四年度までに実施した横田飛行場周辺学校等防音工事に対する補助の実績は、被告別冊第12表記載のとおり合計二九五施設、補助額の総額三一〇億六〇五八万円余に及び、そのうち原告らの居住地周辺における防音工事補助事業実施学校等は同第13表記載のとおりである。

ところで、除湿温度保持設備については、設置後その維持管理費が学校等の設置者にとつて大きな負担となつたため、全国基地協議会等が被告に対し、右維持管理費の国庫補助を要望していたところ、昭和四七年度から行政措置によりその一部の補助が実施されるに至り、さらに昭和四九年三月一五日から防音事業関連維持費補助金交付要綱(同年防衛施設庁訓令第一号)が施行され、昭和四八年四月一日以降実施した事業について適用され、電気料金の三分の二が補助されることとなつた。被告が昭和四八年度から同五四年度までの間に横田飛行場周辺において実施した防音工事関連維持費補助金の実績は、被告別冊第18表記載のとおりであり、その総額は六億八八六六万円余である。

2 その他の公共用施設に対する障害防止工事の助成、民生安定施設の整備に対する助成

被告は昭和三七年度以降行政措置により横田飛行場周辺の自治体が行う道路改修等の公共事業に対し、補助金を交付し助成措置をとつていたが、周辺整備法の施行により、自衛隊または米軍の航空機のひん繁な離発着等により生ずる障害を防止軽減するため、地方公共団体その他の者が公共用施設(農業用等施設、道路・河川、水道・下水道、テレビの共同受信施設等)について行う工事に対し、その費用の全部または一部を補助するものとされ、また防衛施設の運用により周辺地域の住民の生活または事業活動が阻害されているときは、その障害の緩和のため地方公共団体が行う民生安定施設(道路、有線ラジオ放送施設、水道、有線放送電話施設、し尿処理施設、ごみ処理施設、消防施設、一般住民の学習・保育・休養または集会のための施設、農業用等施設その他)の整備についての措置に対し、その費用の一部を補助することができるとされ、補助の割合に関して、同法施行令により施設の種類別に一〇分の八ないし一〇分の五の範囲で定められている。生活環境整備法も公共用施設の障害防止工事の助成及び民生安定施設の整備に対する助成に関して、周辺整備法とほぼ同旨の規定をもうけているが、さらに民生安定施設の助成の対象となる施設につき養護施設、看護婦養成所、准看護婦養成所、無線施設、養護老人ホーム、公園その他の公共空地、老人福祉センターなどが加えられ、補助の割合も一部増加されている。

被告が昭和四〇年度から同五四年度までの間に実施した横田飛行場周辺一般障害防止工事に対する助成の実績は、被告別冊第16表記載のとおりで、排水路及び土砂崩れ防止工事合計四件、補助金総額一七億七四五二万円となつている。また民生安定施設の整備に対する助成の実績は、被告別冊第14表及び第15表記載のとおりで、助成の対象は、一般助成としては道路の改修、水道施設、消防施設、無線放送施設、有線放送施設、公園、屋外運動場、緑地、汚水除去施設、農業用施設、学習等供用施設の各設置などであり、補助金総額三九億八七九八万円となつており、防音助成としては、公民館施設、図書館施設、学習等供用施設、養護老人ホーム施設、保健相談センター施設、老人福祉センター施設、准看護学院施設、特別集会施設、コミュニティー施設、隔離病舎施設、商工業研修等施設、合計九四施設、補助金総額五六億七九七七万円余となつている。

なお被告の補助により設置された学習等供用施設の例として、当裁判所が検証した昭和会館があるが、同会館は横田飛行場滑走路の中心線上、オーバーラン南端から南へ約二〇六〇メートル、東へ約一四〇メートルの地点、昭島市松原町一丁目二番地二五(青梅線南側地区)に所在し、昭島市が昭和四七年被告から二二七〇万円の補助を受けて新築したもので、鉄筋コンクリート造二階建五八一平方メートル、学習室・集会室・図書室・保育室・休養室がもうけられ、防音設備・除湿温度保持設備も整い、一般市民及び学生らの利用に供されている。当裁判所の第四回現場検証の際、被告代理人らが屋外及び屋内において航空機騒音を測定し、比較したところ、窓閉め切りの状態で三〇ホン前後の減音効果が認められた。

3 住宅防音工事の助成

公共用飛行場周辺において、昭和四九年航空機騒音障害防止法の改正により個人住宅の防音工事に対し助成措置がとられることになつたのに対応して、米軍(または自衛隊)の使用に供される飛行場の周辺においても、生活環境整備法の施行により、防衛施設庁長官が指定する第一種区域において、当該指定の際現に所在する住宅につき、その所有者等が行う防音工事に対し助成措置がとられることとなつた。

助成の対象となる室数は、原則として一世帯一室とされ、五人以上の世帯でかつ同居者に六五才以上の者、三才未満の者、心身障害者または長期療養者のいずれかに該当する者がいるときは二室とされていたが、昭和五三年度以降五人以上の世帯であれば、その他の制限はなくなり、一世帯二室までの防音工事が助成の対象とされることになつた。なお将来全室防音工事に拡張されることが検討されており、昭和五四年度に試験的に全室防音工事が実施された。

住宅防音工事の仕様は、居室につき外部及び内部開口部、外壁または内壁及び天井面に対する遮音及び吸音工事並びに冷暖房器・熱交換換気扇を使用した空調工事よりなり、さらに外部開口部に遮音工事を施工することにより、室内で所定の防音効果が得られると認められる場合には、居室の防音工事に代えて住宅全体を対象とする工事を施工することができるものとされ、これらの工事によつて二〇ホン以上の減音効果が見込まれている。当裁判所の第四回現場検証の際、被告代理人が原告大野悦子方の防音室内(窓閉め切り)と屋外において航空機騒音を測定し、比較したところ、二〇ホンないし三〇ホン前後の防音効果が認められた。

住宅防音工事に対する補助の割合は、原則として一〇分の一〇であるが、工事費については限度額が、その他の費用(設計監理費等)については工事費に対する割合等が定められ、工事費の限度額は、昭和五〇年度において、一世帯一室の場合、農村型住宅(居住部分と土間、板の間等の作業場が結合した建築様式の住宅)では一八〇万円、都市型住宅(農村型住宅以外の住宅)では一六〇万円、二室の場合、前者では三二〇万円、後者では三〇〇万円とされ、昭和五三年度においては、一室の場合各五万円、二室の場合各一五万円がそれぞれ右各金額に加算されている。

被告が昭和五四年度までに横田飛行場周辺(入間市を含む。)において実施した住宅防音工事助成の実績は、三六四〇世帯、補助金総額六五億四三〇〇万円に及んでおり、そのうち原告らに関しては、被告別冊第9表及び第10表の住宅防音欄記載のとおりである。

ところで住宅防音工事により、横田飛行場周辺の住民が航空機騒音から蒙る損害はかなり軽減されるようになつたといえるであろう。しかし居住者が借家人であつて家主の防音工事に対する承諾が得られないため、住宅が古く防音工事の効果に疑問があり或いは近く建替えが予定されているため、新築後間もないため、健康を害していて工事がわずらわしいため、施工後の経済的負担(電気料金等)を嫌うため、などの理由により、防音工事の助成を受けられる地域に居住しながら、その申請を控えている者も少なくなく、被告の予算上の関係もあつて横田飛行場周辺における住宅防音工事の達成率は昭和五三年末現在でおよそ三〇パーセントにとどまつている。さらに、いまだ全室防音化が実現していないうえ、住宅防音工事の欠点として、夏季に常時冷房機を使用して防音室を閉め切つておくと健康上支障を生ずるおそれがあり或いは経済的負担が重くなること、家屋の建付けなどに隙間があると減音効果が減殺されること、などの理由で防音工事の効果が十分に発揮されていない点があると指摘されている。

4 建物等の移転補償及び土地の買入れ

被告が昭和三九年以降行政措置により或いは周辺整備法、生活環境整備法に基づいて、航空機騒音の特に激しい地域において建物等の移転補償及び土地の買入れを実施したことは前記のとおりであり、昭和五四年度までの実績は、建物五九一戸、土地三九万六五七四平方メートル、補償及び買収費総額七四億四九三四万円余となつている。右移転等の大半は、堀向地区の集団移転に伴うものであるので、以下右集団移転の経緯について概観する。

堀向地区のうち横田飛行場に近接する同地区北部の住民は、激しい航空機騒音と墜落等の危険に対する恐怖にたまりかねて、昭和三九年七月以降集団で他地区へ移転することを考慮し、その補償を求めて地元昭島市や被告に対し、陳情・請願を繰返していたところ、昭和四〇年七月三〇日被告政府は、基地問題等閣僚懇談会了解事項として、横田・厚木その他ジェット機がひん繁に離着陸する自衛隊及び米軍の飛行場の周辺において、航空法第二条に規定する進入表面及び転移表面の各投影面と一致する区域のうちで防衛施設庁長官の定める区域内にある建物等の移転・除却による損失の補償、その敷地の買入れ等の措置を講ずるとの基本方針を打出し、同年八月防衛施設庁によつて「飛行場周辺の安全措置実施に伴う損失補償算定基準」が策定され、堀向地区北部の集団移転対策が具体化した。昭島市は右集団移転に当たり住民と被告との間の折衝を仲介するとともに、住民の移転先として都営住宅などをあつせんしたり、横田飛行場南端からほぼ南へ約三キロメートル先の同市宮沢町及び大神町に、被告の補助金五五〇〇万円余を含め約二億七四〇〇万円をもちいて「東ノ岡団地」を造成し、集団移転の促進をはかつた。かくして昭和四〇年当時堀向地区の移転指定区域内に居住していた約九〇〇世帯のうち、およそ五五〇世帯が昭和四七年度までに東ノ岡団地その他へ移転した。

しかし右集団移転に当たり被告の対策が主として建物の所有者を対象とするものであつたため借家人の移転が困難となり、また補償金の額が移転費用を十分に賄うことができなかつた(右集団移転者のうち約半数を占める昭和飛行機株式会社社宅の居住者は、同会社から社宅の払下げを受け、被告から移転補償費として一戸当たり平均七一万二〇〇〇円、同会社から移転協力金及び立退料として一戸当たり二八万九〇〇〇円、合計一〇〇万一〇〇〇円を得たが、右資金では東ノ岡団地の分譲地を購入し、家屋を建築する費用として十分ではなかつた。)などの理由で移転できず、堀向地区に残留せざるを得なかつた者も少なくなく、昭和四八年度以降においては航空機騒音の減少、被告のその他の対策の充実などもあつて、移転対策はほとんど進展を見せていない。

5 移転跡地の整備

被告が昭和三九年以降横田飛行場周辺対策として買入れた土地は主として基地南地区、堀向地区内の土地であるが、当初右土地の管理が行き届かなかつたため、雑草が生い繁り、火災の心配や衛生上・風紀上の問題が起こり、住民の苦情を受けた。やがて昭和四六年頃から被告は右土地を地元自治体や民間会社、農業協同組合等に貸与し、焼却残灰埋立地、樹木の植栽、苗木の栽培等に使用させ、その跡地の管理は次第に行き届くようになつてきた。生活環境整備法の施行により、被告は第三種区域内にある土地で周辺対策として買入れたものについては緑地帯その他の緩衝地帯として整備されるよう必要な措置をとることが義務づけられているところ、横田飛行場周辺における前記買入土地については、これを第三種区域内にある土地に準じて取扱い、緑地帯としての整備を進め、昭和五〇年度から同五四年度までの実績は被告別冊第11表記載のとおりで、三七万四九九〇平方メートルの土地に二億九三二八万円余の資金をもちいてマテバシイ・トウカエデ・ヒマラヤスギ・サクラ・ケヤキ・シイノキなど七〇種以上、六万三〇〇〇本余の樹木を植栽した。

6 ラジオ・テレビ受信料減免等の助成

横田飛行場周辺において航空機、ことにジェット機の飛行及びその騒音によりラジオ・テレビの視聴妨害を生じ、これに対する住民の苦情がたかまつてきたので、昭島市では昭和三六年頃から日本放送協会や被告(調達庁)に対し、その対策を求めてきたところ、昭和三九年四月日本放送協会は郵政大臣の認可を受けた受信料免除基準に基づき、横田飛行場周辺において着陸帯の末端から延長方向2.5キロメートル、横方向一キロメートルの範囲の区域内に受信器を設置した者が締結する放送受信契約に対し、ラジオ受信料全額免除及びテレビ受信料半額免除の措置を講じ、昭島市内ではおよそ五九〇〇世帯がその対象となつた。しかるに同飛行場周辺の住民は右措置に満足せず、テレビ受信料全額免除の運動を起こし、一部の地区では受信料不払いを実行するものもあり、昭島市においても受信料全額免除と免除対象地域の拡大を要請した結果、日本放送協会は昭和四五年四月一日から半額免除の地域を、着陸帯の短辺の延長で飛行場の外辺から各一キロメートルの距離にある点及び長辺の延長で飛行場の外辺から各五キロメートルの距離にある点をとおつて着陸帯に平行する線が交わつて得られる長方形の区域を基準として同協会が定める区域に拡大し、これにより昭島市においては同市全世帯の約六割に当たる一万六三〇〇世帯が半額免除の対象に入ることになつた。

日本放送協会のテレビ受信料半額免除の措置に対応して、被告は同協会に対し、昭和四五年度以降行政措置により補助金を交付している(当初は免除額の一部に相当する金額であつたが、昭和四八年度以降免除額全額に相当する金額を補助している。)。その実績をみると、昭和四五年度において六六〇五件、補助金六六一万円余であつたが、その後件数、金額ともに増加し、昭和五四年度においては三万三六三九件、補助金一億三三七四万円余となり、昭和四五年度から同五四年度までの合計は二五万六〇〇〇件、補助金七億六〇〇〇万円余となつている。このうち原告らに関しては、被告別冊第9表及び第10表の「テレビ受信料減免」欄<省略>記載のとおりである。

また被告(防衛施設庁)は、昭和四六年三月頃テレビのフラッター障害防止のためのアンテナを横田飛行場周辺に六〇個所、そのうち昭島市分としては共同アンテナ九世帯分、単独アンテナ一九世帯分を割当て、試験的に設置した結果、騒音の激しい地区ほど効果があつたが、取付後の維持管理費の負担その他の問題から、右アンテナの普及はみられなかつた。さらに被告(防衛施設庁)は、昭和四七年六月テレビ音声同調自動装置(右装置は、集音マイク・音声同調器及びスピーカーの三点よりなり、軒下に取付けたマイクが航空機騒音をとらえると同調器が作動し、テレビのイヤホンジャックから取り出した音声を増幅してスピーカーで流す装置である。)を進入表面下の区域の三世帯を選んで設置し、実験を試みたが、同装置により増幅された音声もジェット機の金属音には及ばず、かえつて二重の音が重なり、不評であつた。

7 騒音用電話機設置事業の助成

航空機騒音によつて電話の聴取が妨害され、通話時間が延長し、通話料金がかさむ事態が生じ、昭島市においても、昭和三六年以降電話料金減額の陳情・要請を関係機関に対し繰返し行つていたところ、日本電信電話公社が昭和四四年騒音用電話機を開発したことに伴い、被告は昭和四六年度以降行政措置として電々公社に対し、騒音用電話機設置事業の補助、すなわち基地周辺の一定地域内の電話加入者は、電々公社から無料で使用中の電話機を騒音用電話機に変更してもらうことができるかわりに、被告は同電話機の設置について電々公社に補助金を支払うという措置が講じられることとなり、防衛施設庁長官は昭和四七年一月一七日騒音用電話機設置対象区域につき前記認定の昭和四五年改定後のテレビ受信料半額免除区域と同一の区域と定めた。

ところで騒音用電話機は、一般の電話機が周囲騒音六〇ホンでは通話可能であるが、八〇ホンを超えると通話困難となるのに対して、八〇ホンでも通話の明瞭度を維持することができ、九〇ホンから九九ホンの間でも多少の影響はあるが通話可能であるように設計されている。しかし同電話機は送受話音量の増大を図るものではなく、通話以外の周囲の音を消去するように送受話器部分を改良したもので、送話口のまわりを手で囲わないこと、送話口に直角に向つて話しかけることなど、正しい使用方法に従わないと相手方にこちらの声が伝わり難くなるという不便さがある。そのため一旦設置した後取外したという者も少なくない。

横田飛行場周辺において、昭和四六年度から同五一年度までの間に騒音用電話機を設置した実績は、設置台数九四三一台、補助金総額四六六四万円余であり、昭和五二年度以降においては同電話機設置の希望者がほとんどみられない。原告らについて同電話機設置の状況は、被告別冊第9表及び第10表の「騒音用電話機」欄記載のとおりである。

8 市町村の財政負担と交付金

(1) 米軍及び自衛隊の基地を構成する国有財産に対して基地所在の市町村は固定資産税を賦課することができず、また米軍に関しては特例法により各種地方税の賦課が制限されているため、広大な基地を抱えている市町村は税収入が減少し、財政の圧迫を招いている。そこでこれらの市町村は昭和三〇年一一月全国基地協議会を組織し、被告(国会、自治省等)に対し地方税の減収分を補填するための交付金の制度を強く要請した結果、昭和三二年五月一六日「国有提供施設等所在市町村助成交付金に関する法律」が施行され、固定資産税の減収による財政圧迫を緩和するための交付金(以下基地交付金という。)が交付されることになり、また米軍関係の各種地方税の課税制限に対する見返りとしては、昭和四五年自治省告示により「施設等所在市町村調整交付金交付要綱」が定められ、右要綱に基づく調整交付金が交付されている。

昭島市における基地交付金及び調整交付金交付の実績をみると、昭和四〇年度から同四九年度までの基地交付金の合計額は七億二九三一万円余、昭和四五年度から同四九年度までの調整交付金の合計額は八二六〇万円余であり、これに対して同市の昭和四〇年度から同四九年度における固定資産税・都市計画税の減収相当額は合計一四億一〇八〇万円余であつて、右両交付金の合計額をもつてしても固定資産税・都市計画税の減収相当額に遠く及ばず、基地関連市町村の財政に対する負担が完全には解消されていないことが知られる。

(2) 被告は昭和三〇年代より、基地周辺の市町村が航空機騒音等による被害を防止・軽減するために行う障害防止工事・民生安定施設整備事業に対し、補助金を交付してこれを助成してきたが、右助成措置は事業経費全額を国庫負担とするものではなく、その一部は市町村の自己負担とされているため、これが基地周辺の市町村の財政を圧迫する一因となつた。その状況を昭島市についてみると、同市が学校建設事業・建設水道事業・学習等供用施設事業・福祉施設事業・防災施設事業等の防衛関係事業につき、昭和四一年度から同四九年度までに要した総経費は二三億七三九万円余に及ぶが、このうち国庫支出金は一八億二四四九万円余(79.1パーセント〕、昭島市(法人を含む。)の負担金は四億八二九〇万円余(20.9パーセント)、右負担金のうち地方債によつて賄つたもの一億六七一〇万円(7.2パーセント)であつた。

このような基地市町村の環境整備事業から生ずる財政負担の緩和をはかるため、生活環境整備法は、前記基地交付金・調整交付金とは別に、新たに特別防衛施設周辺整備調整交付金の制度をもうけた。これによると、内閣総理大臣は、防衛施設の設置・運用がその周辺地域の生活環境または地域開発に及ぼす影響の程度等を考慮し、当該周辺地域を管轄する市町村が行う公共用施設の整備について特に配慮する必要があると認めるときは、当該防衛施設を特定防衛施設、当該市町村を特定防衛施設関連市町村としてそれぞれ指定することとなり、右指定があると、被告は特定防衛施設関連市町村に対し、一定の公共用施設の整備に使える自由な経費として、特定防衛施設周辺整備調整交付金を交付することができるものと定められた。右調整交付金の対象となる施設としては、交通施設・通信施設・スポーツまたはレクリエーションに関する施設・環境衛生施設・教育文化施設・医療施設・社会福祉施設・消防施設・産業の振興に寄与する施設などがあげられている。

ところで内閣総理大臣は、昭和五〇年三月一〇日横田飛行場を特定防衛施設に、立川市・昭島市・福生市・武蔵村山市・羽村町・瑞穂町を特定防衛施設関連市町村に指定し、右市町に対し昭和五〇年度から同五四年度までの間に被告別冊第17表<省略>記載のとおり総額二八億一三一五万円余の特定防衛施設周辺整備調整交付金を交付している。右交付金による市町村の事業実施例をみると、交通施設として立川市遊歩道設置事業、スポーツまたはレクリエーションに関する施設として福生市武蔵野児童遊園設置事業、環境施設として昭島市野水堀改修事業、教育施設として拝二小の給食施設新設事業、医療施設として昭島市堀向診療所新設事業、消防施設として立川市防火貯水槽設置事業などがある。

(二)  <証拠>によれば、公共用飛行場の周辺対策について概略次のとおり認めることができる。

周辺整備法の施行から一年近く遅れて前記航空機騒音障害防止法が施行されたが、同法は、公共用飛行場における航空機騒音による障害を防止・軽減するため、運輸大臣に航空機の航行方法等につき規制する権限を与えるとともに、周辺整備法にならつて周辺対策を規定している。すなわち、同法によると、運輸大臣が指定する公共用飛行場及び新東京国際空港(以下特定飛行場という。)の設置者(運輸大臣・新東京国際空港公団)は、特定飛行場周辺の学校・病院等について地方公共団体その他の者が障害防止工事を行う場合及び周辺の市町村が学習・集会等の用に供するための施設その他の共同利用施設を整備する場合等において、その費用の全部または一部を補助し、また運輸大臣が特定飛行場の周辺において指定した区域内にある建物・竹木等の移転補償、その他航空機の離着陸による農業等の事業経営上の損失補償を行うものとされ、同法に基づき特定飛行場の設置者が昭和四二年度から同四五年度までの間において実施した措置の実績は、学校・病院等の防音工事助成が九九件、三〇億九七四二万円余、共同利用施設整備の助成が二〇件、二億三二五〇万円、移転補償等が七九件、二億九二〇〇万円、以上合計三六億二一九二万円余であり、東京国際空港周辺における昭和四二年度から昭和五〇年度までの学校・病院等の防音工事助成の実績は二四件、二二億二八〇〇万円であつた。さらに昭和四三年八月日本船舶振興会、日本放送協会、航空会社等の協力によつて設立された財団法人航空公害防止協会は、同年一〇月以降東京・大阪両国際空港周辺においてテレビ受信障害対策助成金の交付を実施している。

航空機騒音障害防止法においても、その施行当時においては周辺整備法と同様、住宅防音工事の助成に関する規定を欠いていたが、昭和四九年の改正により、生活環境整備法と同様、新たにWECPNL値による第一種ないし第三種区域の指定と右区域別による住宅防音工事の助成、建物等の移転補償と土地の買入れ、緑地帯その他の緩衝地帯の整備に関する規定がもうけられ、東京国際空港周辺においては、昭和五〇年五月一〇日運輸省告示をもつてWECPNL八五以上を第一種区域、同九〇以上を第二種区域、同九五以上を第三種区域とする区域指定がなされた。さらに同改正法は、第一種区域の市街化が進むことによつて新たに航空機騒音による障害が発生することに対処するため、政令で指定する周辺整備空港(大阪国際空港・福岡空港)の周辺地域において、都道府県知事が策定する第一種区域内の土地の取得、緑地帯の整備、移転者のための住宅用地の取得等に関する空港周辺整備計画を、被告政府及び地方公共団体等が出資し設立する空港周辺整備機構(法人)をして実施させることとしている。

ところで、航空機騒音に係る環境基準が設定された昭和四八年一二月二七日から五年を経過した昭和五三年末において、全国一五箇所の特定飛行場周辺における住宅防音工事、移転補償等の達成率は平均82.7パーセント、住宅密集度の高い大阪国際空港及び福岡空港周辺においてはいずれも五〇パーセント前後となつており、米軍及び自衛隊の飛行場等の周辺における平均42パーセント、横田飛行場周辺における約三〇パーセントに比して高い達成率を示している。

新東京国際空港周辺における住宅防音工事の実施状況をみると、昭和四七年度から四人以下の世帯で一室、五人以上の世帯で二室の防音工事が施工され、昭和五四年一月以降全室防音工事(五室まで)が実施され、同年八月一〇日現在同工事につき五〇〇戸の申込みがあり、そのうち一〇〇戸が工事を完了している。また同年七月一〇日WECPNL八〇以上の騒音区域の追加指定に伴つて、同年八月二〇日から同追加区域内の住宅の防音工事の申込受付が開始されている。

第六受忍限度と被告の責任

一過去の慰藉料請求

(一)  一般に飛行場を設置し、これを航空機の離発着の使用に提供すれば、周辺地域に多かれ少なかれ航空機騒音等による影響を及ぼすことは避けることができないところである。しかしこのような飛行場を住宅地域に、しかも有効な緩衝地帯をもうけることなく設置し、その管理運営により周辺地域の住民に対し、航空機騒音等のため受忍限度を超える被害を与えるときは、右飛行場の設置管理は周辺住民に対する関係において違法性を帯び、瑕疵があるとの評価を受けなければならないと考える。

横田飛行場がわが国の安全と極東における国際の平和と安全に寄与するという高度の公益目的のために、米軍に提供された軍用飛行場でであることは前記のとおりであるが、同飛行場における米軍機の行動が、わが国に対する他国の武力攻撃に対処するための緊急やむを得ない軍事行動である場合は別として、平和時において、航空機騒音等により受忍限度を超える環境破壊をもたらしている以上、同飛行場のもつ高度の公益性と雖も、民特法に基づく被告の金銭賠償責任の有無を判断するうえで、同飛行場の設置管理に瑕疵があると評価することを妨げるものではなく、同飛行場のもつ高度の公益性は、周辺住民の被害が受忍限度を超えているか否かの判断のうえで考慮されるべき事情のひとつに過ぎないと解すべきである。

(二)  そこで横田飛行場周辺地域における環境破壊の程度が受忍限度を超えるものであるか否かを、前記の侵害行為、被害及び被告の対策の各内容並びに同飛行場のもつ高度の公益性を総合して検討する。

1 横田飛行場における航空機騒音等は、第一期の朝鮮戦争の頃から金属性の激しい騒音を発するジェット機の登場によつて急激に悪化したものと認められるが、その当時における航空機騒音等の状況に関する客観的資料が極めて乏しいため、第一期において既に環境破壊の程度が受忍限度を超えていたか否かを的確に判断することはできないといわざるを得ない。しかるに第二期に入り、昭和三九年F一〇五戦闘爆撃機が移駐し、昭和四〇年始め頃いわゆる北爆が開始され、騒音発生回数及び騒音レベルはともに最悪の状態に陥り、第一期の昭和三五年頃から増大した航空機騒音等による影響の蓄積とあわせ、遅くとも昭和四〇年以降において横田飛行場周辺の生活環境の破壊が受忍限度を超えるに至つたことは明らかといえる。特に中里地区並びに基地南地区及び堀向地区のうち進入コース直下地域の状況はまことにすさまじいものがあり、堀向地区集団移転の事実にあらわれているように、右地域の生活環境は、人が通常の生活を営むのに堪え難い状態にまで破壊されていたといわざるを得ない。また基地南地区及び堀向地区のうちの進入コース直下地域以外の地域並びに青梅線南側地区及び基地西地区においても、被告の周辺対策の立ち遅れを考えると、右地域の環境破壊の程度が受忍限度を超えるものであつたことは、否定できないと考える。

2 第三期及び第四期においては、騒音発生回数及び騒音レベルともに減少するとともに、被告の周辺対策もようやく充実してきて、これにより横田飛行場周辺の生活環境は第二期に比較して著しく改善され、原告らの被害も軽減したといえる。しかし周辺対策が充実してきたとはいえ、音源対策・運航対策において横田飛行場は公共用飛行場に比較し、軍用飛行場としてやむを得ないとはいえ、著しく劣つている点に問題があるといわざるを得ない。とりわけ訓練飛行以外の夜間飛行及び早朝における暖機運転について、米軍の自主規制に委ねられ、なんらの規制措置が講じられず、このため全体としての騒音発生回数は減少しているものの、夜間飛行等の規制されている公共用飛行場に比較して、深夜早朝における騒音発生回数の多いこと(東京国際空港との比較につき別表18)に、原告らの不満が集つていることは理解できるところである。

また被告は、第一期から第四期を通じて周辺対策に巨額の経費(証人北田保男の証言によれば、横田飛行場の周辺対策に支出した補助金総額は、昭和五三年第2.4半期末現在で約四六二億円余に達するという。)を投じ、その努力は評価すべきであるが、それにもかかわらず現在までのところ、救済措置として完全なものとはいえない。すなわち、住宅防音工事についてみると、いまだ全室防音工事が実現していないだけでなく、二〇ホン程度の減音効果では、進入コース直下地域及びその付近におけるようにしばしば一〇〇ホンをこえる強大な騒音にさらされている地域においては、防音室内においても日常生活の妨害、心理的・情緒的影響が完全に解消しているとはいい難く、睡眠妨害も軽減されているとはいえ、相当の影響が残るものと考えられる。更に飛行場にごく近接した地域における排気ガス・振動の影響及び進入コース直下地域における墜落等の危険が防音工事によつて解消されないことは明らかである。

これらの事情を総合してみると、第三期及び第四期においても、原告らの居住地のうち、中里地区並びに基地南地区・堀向地区及び青梅線南側地区の進入コース直下地域付近の被害は、地域によりその程度に差があるにせよ、なお受忍限度を超えているものと認めることができるが、進入コース直下地域付近から東西に離れている地域に関しては、被害が完全に解消しているとはいえないにしても、その程度は受忍限度を超えているものと認めることができないと考える。

3 右のとおり、第三期及び第四期においては、原告らの居住地のうちに、航空機騒音等による被害が受忍限度を超えると認めることのできる地域と認めることのできない地域があるが、両者の境界を具体的に画するとなると、極めて困難な問題が起きる。航空機騒音の生活環境に及ぼす影響を評価するには、単に騒音レベルだけではなく、その発生頻度、昼間・夜間における影響度の差異など複雑な要素を考慮する必要があるところ、これらの要素を総合して騒音の影響度を評価するとなると、現在において信頼することのできる評価方法としては、NNIまたはWECPNLの値を基準とする方法以外にないといわざるを得ない。そして本件において、第三期以降の横田飛行場周辺における原告らの居住地の各地域別騒音状況を包括的に明らかにする資料としては、社団法人日本音響材料協会が作成した前記のWECPNL新旧コンター図がもつとも詳細であり、他にこれにかわるべき適切な資料がない。そこで右新旧コンター図を基礎資料として境界を画することとし、原告らの居住地を、右各コンター図のいずれにおいてもWECPNLの値が八五未満の地域とそれ以外の地域とにわかち、前者の地域に居住する原告ら(別表第二記載)に関しては、その被害が受忍限度を超えていると認めることはできないが、後者の地域に居住する原告ら(別表第一、(一)及び(二)記載、ただし原告和田誠吾、同小林昭子、同阿武功、同枝川栄次、同永山信之、同島田直吉、同成川末雄、同宮崎信夫、同桑原太郎、同欠瀬道男、同荒木秋義、同斉藤二三、同鹿島行雄、同市沢終治については、いずれも転居前の居住地)に関しては、その被害が受忍限度を超えていると認めることができる、と判断するのが相当と考える。なお東京都公害局の調査にかかる昭和五一年度ないし昭和五三年度のWECPNLコンター図も右認定判断と齟齬するものではない。

4 以上により、原告らの主張する過去(昭和三五年六月二三日以降本件口頭弁論終結日まで)の慰藉料請求に関しては、被告は、右受忍限度を超えると認めることのできる被害につき、当該原告らに対し、民特法第二条に基づく損害賠償責任があるが、時期的または地域的に受忍限度を超えると認めることのできない被害に関しては、原告らの請求の根拠が民特法第一条または第二条もしくは国家賠償法第一条または第二条のいずれであるにせよ、被告の賠償責任は認めることができないと考える。

(三)  ここで、被告のいわゆる危険への接近についての主張に対する当裁判所の見解を明らかにする。

被告は、原告らが横田飛行場周辺に居住を開始したのは、同飛行場が旧陸軍の多摩飛行場として設置された昭和一五年以降のことであるから、原告らは衡平の観念に照らし、同飛行場の使用にともない発生する航空機騒音等による被害につき、これを受忍すべきである旨主張する。

<証拠>によれば、原告小林昭子は横田飛行場周辺において出生した者であるが、その他の原告らは他の地域より同飛行場周辺に転入した者であり、かつ同飛行場が設置された昭和一五年以前に転入した者はひとりもなく、大部分は終戦後米軍の使用開始後に転入した者であり、航空機騒音等がもつとも激しい状況にあつたと思われる第二期以降に転入した者も少なくないことが認められる。

しかし、横田飛行場周辺地域が戦後の社会情勢のもとにおいて急速に人口が増加し、市街化したことは顕著な事実であるところ、前記の甲号証並びに原告ら各本人尋問の結果によれば、原告らは、本人または家族の経済上・健康上・職業上等の理由から転居の必要に迫られ、同飛行場周辺地域の都心部に近い便利さと経済性に魅力を感じ、或いは武蔵野の面影を残している閑静にして健康的な住宅地域と信じて右地域に転入してきたものであることが認められ、原告らが同飛行場における米軍機の活動を制約せしめ、或いは損害賠償を求める意図のもとに転入してきたものと認めるべき証拠はなにもない。そうすると、原告らが右地域に転入したには、いずれも相当の理由があつたといえるのであつて、原告らが航空機騒音等についての知識を十分に有しない一般の市民であることも考えると、たとえ転居の際航空機騒音等の激しさについての調査の不十分な者がいたとしても、これをもつて直ちに衡平の観念上損害賠償の請求を許されないものと解することはできない。

被告の主張するいわゆる危険への接近の理論は、民法第七二二条に定める過失相殺のひとつの適用として、事案のいかんによつては損害賠償額の算定に当たつて斟酌すべき事由となり得るであろう。しかし本件において原告らが横田飛行場周辺に転入した事情には相当の理由があり、これを非難すべき事由が見当たらないばかりか、却つて原告らより被告の方がジェット機の登場による被害の発生を予知し得べき立場にありながら、十分な騒音監視体制をもうけることなく、環境破壊の程度が生活に耐え難くなるまで殆んどなんらの対策をとらなかつたことに対する非難性が強く、本件にいわゆる危険への接近の理論を適用して受忍限度を超える被害を蒙つている原告らの損害賠償額の算定につき減額の事由とすることは相当ではないというべきである。

二将来の慰藉料請求

その被害が受忍限度を超えると認めることのできない別表第二記載の原告ら並びに既に死亡した原告樋口金二郎及び転居により現住居地の被害が受忍限度を超えると認めることのできない原告和田誠吾、同小林昭子、同阿武功、同枝川栄次、同永山信之、同島田直吉、周成川末雄、同宮崎信夫、同桑原太郎、同欠瀬道男、同荒木秋義、同斉藤二三、同鹿島行雄、同市沢終治について、将来の慰藉料請求が認容できないことは明らかである。

そこでその余の原告らの将来の慰藉料請求の当否について検討する。

前記のとおり、本件慰藉料請求権は、横田飛行場周辺における航空機騒音等による環境破壊の程度が、その地域の住民に受忍限度を超える苦痛をもたらしている場合に、当該地域の住民に認められるものであつて、単にある月において(一回でも)夜間飛行が行われ或いは一定レベル以上の騒音が発生したことによつて、直ちにその月における慰藉料請求権の発生が認められるものではないから、原告らの将来の慰藉料請求をそのまま認容することは到底できない。それのみではなく、慰藉料請求権発生の要件である環境破壊の程度が受忍限度を超えているか否かの点は、騒音レベル・発生頻度その他被告の対策等を含め、諸般の事情を総合して判断する必要があるところ、横田飛行場の軍用飛行場としての性格上、同飛行場における航空機騒音等の状況には恒常性がなく、将来を予測することが極めて困難であり、また被告の周辺対策は漸次充実してきており、すでに住宅防音工事の対象地域もWECPNL八〇以上の地域に拡大されることになり、全室防音工事の施工も検討され、更に公害対策基本法に基づく航空機騒音にかかる環境基準(WECPNL七〇ないし七五以上)の設定によつて、被告が右基準の達成を義務づけられていることなどを考慮すると、将来における横田飛行場周辺地域の被害状況を予測するには、不確定な要素が多く、現在において的確な判断をすることは不可能である。従つて右原告らの将来の慰藉料請求も、その要件事実の証明が不十分であるといわざるを得ない。

よつて、原告らの将来の慰藉料請求は、その根拠が民特法第一条または第二条もしくは国家賠償法第一条または第二条のいずれに基づくものであるにせよ、理由がなく、棄却を免れない。

第七消滅時効

被告は、原告らの損害賠償請求権の発生が認められるとしても、本訴提起の日より三年前までの分は消滅時効が完成しているので、右時効を援用すると主張し、これに対して原告らは、航空機騒音等による被害が継続している以上、鉱業法第一一五条第二項の類推適用により消滅時効は進行しないものと解すべきであると主張しているので、この点について判断する。

航空機騒音等は個々の飛行活動またはエンジンテスト等の作業によつて間欠的断続的に生じているものであるから、不法行為はその都度発生し、消滅時効は日々の損害につきそれぞれ進行するものと解すべきであり、これを一個の継続した不法行為であるとし、或いは鉱業法第一一五条第二項を類推適用して、右騒音等による被害が継続している限り、時効が全然進行しないものと解すべきであるとの見解は、にわかに採用することができない。

しかし他面において、不法行為による損害賠償請求権の短期消滅時効は、被害者がその損害を認識したときから進行するものであるところ、本件における損害の内容は多岐にわたり複雑であつて、周辺住民において受忍限度を超えると判断できる程に損害の発生を確認するには、広範な実証的科学的調査研究を必要とすることを考えると、本件損害賠償請求権の短期消滅時効を判断するに当たつては、原告らが損害をいつ認識したといえるかの点について、慎重な考慮を必要とするものというべきである。

ところで、前記第六、一、(二)で判断したとおり、横田飛行場周辺地域の環境破壊は、遅くとも第二期の始め、昭和四〇年頃には受忍限度を超えるに至つたものとみることができるところ、同飛行場周辺の自治体及び住民は、朝鮮戦争の頃から被告に対し騒音の防止軽減対策及び周辺対策の実施を要請し、被告においても昭和二九年頃から行政措置により学校防音工事助成の措置を講ずるようになつたのを始めとして、昭和四一年周辺整備法を施行し、同飛行場周辺地域の環境の改善をはかるため広範な周辺対策を実施するようになつたこと、昭和三九年頃堀向地区の住民が航空機騒音等の余りの激しさにたえかねて集団移転を計画し、同四〇年以降同地区の集団移転が実現したこと、一方その頃には横田飛行場周辺のみならず、各地の飛行場周辺において航空機騒音等の影響が社会問題としてとり上げられ、前記のごとく内外の多くの実証的科学的調査研究が行われ、横田飛行場周辺においても昭和四〇年から同四四年にかけて、児玉省が昭島市医師会の委嘱を受け、同市の協力のもとに同飛行場周辺の住民について航空機騒音等による心理的影響を中心とする調査を実施し、その頃その結果を公表し、昭和四四年六月以降昭島市において継続的に騒音発生回数及び騒音レベルの状況を観測し、昭和四五年には東京都アンケート調査の実施をみたほか、昭和四四年大阪国際空港周辺における航空機騒音等の被害に関して、いわゆる大阪国際空港公害訴訟が提起され、これが当時新聞等によつて広く報道されたこと(右事実は顕著な事実である。)など諸般の事情にかんがみると、原告らのうちで航空機騒音等の特に激しい中里地区並びに基地南地区及び堀向地区のうちの進入コース直下地域の居住者とその他の地域の居住者とでは、被害の程度に差があるため、右被害が受忍限度を超えるものであることを認識した時期に違いがあるであろうが、遅くとも昭和四六年中には、いずれの地域に居住する者にとつても、右被害が受忍限度を超えるものであることを認識したものと認めるのが相当である。

そうすると、原告らのうちでもつとも遅く損害を認識したと認められる昭和四六年を基準とし、本件損害賠償請求権のうち、同年以前に発生した分は一括して昭和四七年一月一日以降、同日以降に発生した分は日々その都度消滅時効が進行するものと解すべく、従つて本件訴訟提起の日であることが記録上明らかな第一次訴訟につき昭和五一年四月二八日、第二次訴訟につき同五二年一一月一七日よりそれぞれ三年前の日より前に発生した被害についての原告らの損害賠償請求権は、民法第七二四条の定める三年の期間の経過により時効で消滅したものというべきである。よつて被告の時効の援用は理由がある。

第八損害賠償額の算定

以上のとおり、別表第一、(一)及び(二)記載の原告らにつき、本件第一次及び第二次各訴訟提起日の三年前の日以降口頭弁論終結日または転居日、死亡日に至るまで(賠償期間)の慰藉料の請求は理由があると認められ、また右慰藉料の請求原因の複雑性に照らし、右原告らが弁護士に委任して訴訟の提起追行に当たつたことは相当であり、右請求に必要な範囲で右原告らが負担すべき弁護士費用も、本件航空機騒音等と相当因果関係のある損害と認められるので、以下右慰藉料及び弁護士費用の相当額について検討する。

原告らは、慰藉料の請求につき、訴訟提起前の分と提起後の分をわかち、前者については一括して、後者については各月毎にその額を算定し、請求しているところ、本来右慰藉料請求権は、賠償期間内の各日毎に発生し、各日毎にその額を算定すべきものであろうが、右期間内における航空機騒音等の状況が恒常的ではなく、被告の周辺対策も漸次充実してきている状態であつて、右期間内の日毎または月毎の地域別の慰藉料を算定するには十分な資料がなく、事実上不可能といわざるを得ないのみならず、環境破壊によるもろもろの苦痛を包括的に評価するには、賠償期間を通じて一括して算定する方が適切な面があるといえるので、訴訟提起前と提起後の各期間を一括して別表第一、(一)及び(二)の慰藉料欄記載の金額(右金額の算定基準については、同表(三)参照。ただし同表(三)1の慰藉料額算定基準は、慰藉料額算定の妥当性と原告ら間の公平をはかるための概括的基準である。)をもつて相当額と認定し、右賠償期間の最終日の翌日以降について遅延損害金を付加することとする。

次に弁護士費用に関しては、<証拠>により、原告らの代表者と同訴訟代理人らの代表者との間において、昭和五五年三月一日付で本件第一次及び第二次訴訟の訴訟委任に伴う弁護士費用として損害賠償請求額の一五パーセントを支払う旨の弁護士報酬契約を締結したことが認められるところ、本件訴訟の難易度を考慮し、慰藉料認容額の一五パーセント(ただし一〇〇円未満四捨五入)に当たる別表第一、(一)及び(二)の弁護士費用欄記載の金額をもつて本件航空機騒音等と相当因果関係のある損害と認め、かつ右弁護士費用の弁済期限の到来後と認められる本判決言渡日の翌日以降について遅延損害金を付加することとする。

第九結論

よつて、原告らの本件夜間飛行差止等の請求にかかる訴えは、不適法であるからこれを却下し、金員請求に関しては、別表第一、(一)及び(二)記載の原告らにつき、同表慰藉料欄及び弁護士費用欄記載の各金員並びに慰藉料欄記載の金員に対する同表遅延損害金起算日欄記載の日から、弁護士費用欄記載の各金員に対する昭和五六年七月一四日から、それぞれ支払ずみに至るまでの民事法定利率年五分の割合による遅延損害金の限度においてこれを認容し、右原告らのその余の金員請求及び別表第二記載の原告らの金員請求をいずれも棄却し、訴訟費用の負担並びに仮執行及び同免脱の宣言につき、民事訴訟法第八九条、第九二条、第九三条、第一九六条を適用し、主文のとおり判決する。

(後藤文彦 鈴木健嗣朗 池本壽美子)

別表第一(三)

1 慰藉料額算定基準

(1) 社団法人日本音響材料協会作成WECPNL新・旧コンター図による地域区分及び地域別一ヶ月平均慰藉料額

WECPNL値による地域区分

符号

一ヶ月平均慰藉料額(円)

旧コンター図95以上、新コンター図90以上95未満の地域

5,000

旧コンター図90以上95未満、新コンター図90以上95未満の地域

4,000

旧コンター図90以上95未満、新コンター図85以上90未満の地域

3,000

旧コンター図85以上90未満、新コンター図85以上90未満の地域

2,000

旧コンター図85以上90未満、新コンター図85未満の地域

1,000

(2) 住宅防音工事の助成を受けた者は、工事施工以降につき(1)の基準額の半額

(3) 進入コース直下地域にして、かつ横田飛行場に近接した地域に居住している原告らにつき、

排気ガス・振動・墜落等の危険に対する慰藉料額の加算(ただし、賠償期間を通じての額)

原告工藤千代子、同小山久子、同森田マサエ、同吉岡佳子、同金井和夫 各10万円

原告隅琢磨、同前原千代美、同大野秀雄、同平井建治、同冨士原武雄  各5万円

(4) 遅延分の加算

第一次訴訟――賠償期間約7年5月(昭和48年4月28日より同55年9月12日まで)の

原告らにつき遅延分として19パーセント()、

賠償期間がこれより短い者は減少した率による加算

第二次訴訟――賠償期間約5年10月(昭和49年11月17日より同55年9月12日まで)の

原告らにつき遅延分として15パーセント()、

賠償期間がこれより短い者は減少した率による加算

(5) 1,000円未満四捨五入

別表18  羽田飛行場(東京国際空港)と横田飛行場周辺における

深夜早期時間帯別騒音(70ホン以上)の年間発生回数

昭和

空港

時間

0~1

1~2

2~3

3~4

4~5

5~6

6~7

21~22

22~23

23~0

50年

羽田

28

10

18

17

14

4

440

392

509

155

横田

176

152

147

166

177

127

130

314

222

197

51年

羽田

44

19

26

18

9

18

529

1,411

2,066

425

横田

102

88

90

103

118

97

115

399

145

125

52年

羽田

7

19

9

18

12

15

573

1,194

2,073

367

横田

67

55

38

60

57

84

136

471

125

102

測定者  東京都

測定場所  (羽田 大田区大森南3~18~26大森第四小学校

横田 昭島市大神町391~1)

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